高級なスーツを身につけ、一分の隙も見せない頭脳明晰なエリート弁護士・志波令真と、口が達者でどんな人物にもなりすますことができるコピー能力を生かし、人を欺く天才詐欺師・ハルト。今秋放送を開始するドラマ『毒恋~毒もすぎれば恋となる~』は“異色”ペアが繰り広げるBLリーガルサスペンスだ。コミカライズもされ、小説・映像・漫画と、それぞれの世界観で物語が紡がれていく。

原作となる同名小説を手がけたのは、小説をはじめ、ドラマや映画、ゲームなど、多くのジャンルで執筆活動を続けてきた牧野圭祐さんだ。第1回「TBS連ドラ・シナリオ大賞」(2009年度)で入選後、2022年には『月とライカと吸血姫』シリーズで第53回星雲賞「日本長編部門(小説)賞」に輝くなど、第一線で活躍。その巧みなプロットや繊細なキャラクター描写、高いエンターテインメント性で、視聴者や読者を引き付けてきた。

今作では、自身初となるBL(ボーイズラブ)作品に挑み、新たな視点で、2人の男の人間愛をも描き出す。原点は、高校生の時に見た名作ビデオの数々。「映像で浮かんだものを文字にしていくという作り方」と、執筆のプロセスを語るように、映像への造詣は深い。『毒恋』執筆の経緯や、ドラマ化への思いなども含め、脚本家・小説家としての現在地を語る。

重視した「BL」における濃淡

——幅広いジャンルで執筆されている中、『毒恋』を完成させる上で最も重視した点はありますか?

BLというジャンル自体が初挑戦だったので、どのぐらいの濃さでBLを描くかということは、編集担当者や関わっている方などと話ながら、ちょうどいいところを探り当てていきました。そこが一番気を付けた点です。BLについては、専門レーベルから出ている作品や一般文芸で出ている作品、ドラマや漫画など、手当たり次第にいろいろと見聞きして学んで、『毒恋』ならではの表現を確認していきました。

——具体的にはどのような表現になったのでしょうか?

今回はあまりBLに馴染みのない方でも入りやすく、2人の関係性や心境の変化を楽しみながら読んでもらえるものを目指していました。主人公の志波には恋愛経験がなく、人を好きになることが分からない、というところから始まり、生まれて初めて知る気持ちへの葛藤や揺らぎなど、段階的に丁寧に描く少女漫画的な作りをしています。直接的な言葉を使わずにどこまで表現できるか、小説ではその点を特に意識していました。漫画の方はもっと分かりやすく表紙からBLの世界観に入ってますが、ドラマの方はもっとライトなコメディ寄りだと思います。漫画でもドラマでも、各分野に合った形で、面白くしていただけたらと思っています。

——BL作品を執筆する際に、可能性や面白さを感じられたポイントはありますか?

いわゆる男女の普通のラブストーリーだと、「好きになる、ならない」という最初の段階があると思うのですが、その前段階がある点です。今回は、人間嫌いの20代後半の志波が、恋愛未経験ゆえ、同性に抱いた自分の感情が分からないという設定にしました。自分の常識や価値観にすごく縛られてきたTHEエリートの志波が、他人への感情が恋か何かも分からないというところから始めるので、まずは異性や同性は関係なく「好き」の前段階から物語を作ることができました。そこがBLの可能性なのかなと思いますね。

小説だからこそ描ける心情

原作はBLと法廷バディものの要素が半々くらいなんですが、内容が山盛りで30分枠では収まらないので、ドラマはどちらかというとラブコメが多めです。小説とドラマのどちらから楽しむのがおすすめかという点は、一長一短ありますが、小説の方が心情など細かく書かれている分、先に読むとイメージが固まってしまうかもしれないので、ドラマを先に見て、1週間待つあいだに小説で深く楽しむという形はいかがでしょうか。

——脚本と小説で、書き方や組み立て方などの違いはありますか?

構成自体は、小説も脚本も同じような感じなのですが、小説は基本的に視点が固定される一方、映像は視点が自由に変わるので、そこは違うと思いますね。例えばハルトが調査に行く際に、小説だと志波の視点で進むために調査のシーンは完全に伏せて、後で「ハルトはこんなことしていました」と種明かしします。それは、小説で頻繁に視点を切り替えると読者が混乱するからなんですが、映像では志波とハルトを交互に映しても、視聴者はついてこられます。

高校生の時、名作ビデオとの出会い

——牧野さんご自身は、『毒恋』という切り口で、実際に毒が回ったように脳がしびれて抗えないほど「好き」に支配されたようなエピソードはありますか?

自分が映像を作ろうと思ったきっかけが、まさにそれだと思っています。高校生の時に、自宅のビデオラックに世界の名作ビデオがすごくたくさん置いてあったのを何となく見ていて、その時に「見たことないものを見てしまった」みたいな感覚があったんです。それで映像をやりたくなりました。なので、大学の映画サークルでは書く専門ではなく、自主制作映画を撮っていました。その中で、現場で監督や編集も撮影も全部やらなきゃいけなくて、頭の中で出来ている映像を実体化するのが面倒くさくなってきてしまって(笑)。それで大学3、4年生の頃に、宮藤官九郎さんの『木更津キャッツアイ』や『GO』を見たのをきっかけに初めて脚本家という職業を意識して、「こっちの道に進もう」となりました。

——今後も執筆を続ける上で、ご自身の核となるような、ここだけは譲れないと思われていることはありますか?

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