家族などと一緒にいる「プライベートな写真」を無断で撮影され、公開されることについて、近年、芸能人が自ら「抗議の声」をあげるようになっています。
かつては「有名税」などといわれ、「ある程度はやむを得ない」との“空気感”があった時代もありましたが、時代とともにその“空気感”も変わりつつあります。
しかし、こうした芸能人の「無断撮影」「無断公開」が、なかなか無くならないのも事実。「表現の自由」と芸能人の「プライバシー」について、株式会社嵐の社長でもある、弁護士の四宮隆史さんが、TBSの単独インタビューに応じました。
(聞き手は 元報道局社会部・裁判担当で、現在 TBS芸能情報ステーションのプロデューサー 池田誠が務めました)
四宮隆史さん
弁護士 / 株式会社 嵐 社長
E&R(エンターテイメント・アンド・ライツ)総合法律会計事務所 代表
株式会社CRG(クリエイティブガーディアン) 社長
株式会社スターサンズ 社長 / action4cinema事務局長
―池田—
近年 芸能人の方が家族を撮影されることに対して、SNS上で「抗議の声」をあげることが増えていると思うのですが、今まで具体的にこういうプライバシーに関して相談を受けたことはありますか。
―四宮—
ありますね…私はエンターテイメントに関連する仕事をもう20年以上やって、 ほぼそこに特化しているんですが、特に芸能人のプライバシーに関するご相談っていうのは、多いです。「プライバシー」と、あとは「誹謗中傷的なもの」っていうのが 最近のSNS文化になってからは特に多いですね。
―池田―
具体的に被害を訴えてくる方っていうのは、どういうことを恐れているのか、どういうことを気にされているのか
―四宮―
基本的な考え方は一般人とあまり変わらないかな というふうには思います。自分の「プライバシー」であったり、「家族のこと」であったり、そういったものが、「世の中に出回って欲しくない」…っていうのは一般人と同じかなと。誹謗中傷に関しても、我々が、一般人が「言われたくないようなこと」であったとしても、メディアに出る、世の中に出る仕事をしてる人っていうのは、受けやすいので…ただ受けて「嫌だな」と思う感覚っていうのは、一般人の感覚とあまり変わらない。
―池田―
古くは「有名税」みたいな言葉で、「ある程度それは許容しなきゃいけないんだ」みたいな、空気感が過去はあったかもしれないが、それは時代とともに変わっていると感じますか
―四宮―
「有名税」というのは、法律の専門用語で言うと、「公人の法理」という言葉があって、公の人の法律の理屈なんですけども、公人だからある程度、一定のプライバシー権の制約を受ける…ということは、裁判でも認められていることなんですね。なので、それは一般的に「有名税」って言ったりしますけど、範囲が広がっているか狭まってるかは ちょっと感覚的にはわからないのですが、実際 判例でもそこは「それほど変わっていない」と思います。
ただ、一般の人の感覚は、SNS文化になってから、やっぱり少しずつ、そういった誹謗中傷的なものとか、プライバシーを侵害するような写真であるとかがSNSに載っている…ということに「慣れてきている」感じはしますよね。
それを「いいね」をしたり、「リポスト」したり、「拡散」したりしていくことに関しての「罪悪感」みたいなことが、ちょっと昔に比べると薄れてきたのかな?という感じはします。
―池田―
となると、1回(SNSなどに)出てしまったもの というのはなかなか完全に消すことが難しい時代になってきている?
―四宮―
はい。
―池田―
だからこそ、守らなければならない という想い?
―四宮―
そうですね…守らなきゃいけない。特にネットだと記録に残ってしまうので、一時話題になった「忘れられる権利」という言葉もありますけど、そういった問題もあるので、以前よりも増して、紙媒体でメディアがあった時代に比べると、インターネット上で、何年も残ってしまうということもあるので、そこはやはり、「より気を付けなきゃいけないかな」とは思いますね。
―池田―
本人が望まない。例えば、「プライベートな写真」が拡散しないようにすることは、法律とか罰則で規制することはできないんでしょうか?
―四宮―
なかなか罰則、法律で一般化していくっていうのは相当難しいだろうなと思います。そこは、だいぶ「解釈の余地」が出てきてしまうので、結局それがプライバシーの侵害にあたるのか、違法な行為なのか、っていうのは、裁判をやってみないとわからない…というのは今と変わらないのかなと。
ただ、一定の何か…各業界団体だとか、テレビや雑誌など、そういった報道機関の自主規制的なもので、何らかルールを作っていただけるといいな という風には思いますね… 法律で作ろうとすると、なかなか難しいという気はします。
―池田―
一方で、「文句があるんだったら訴えればいいじゃないか」とか、「裁判すればいいじゃないか」という声もあると思うが、それが難しい理由は?
―四宮―
一つは、芸能人の場合は やはり訴える場合には自分…個人で訴えなければいけないので、芸名で活動している人でも本名で裁判をしなければいけないし、裁判をして、例えばそれが…(法廷で公開されているため)傍聴はできますよね。
裁判の傍聴はできるので、人の目にさらされることもあるし、今でも日本の場合「裁判沙汰」っていう言葉があって、裁判をすることに「ネガティブな思い」を持っている人もいますから、そこは芸能人は、なかなか一歩踏み出しにくいところなのかなと…「弁護士費用」というのも、もちろんあるとは思います、はい。
―池田―
仮に「プライバシー侵害」が裁判で認定されたとして、実際、その報道をしたメディアが たくさん売れたり、PVが稼げたり という「お金を稼ぐ」っていう部分と (侵害された側が受け取る)賠償額というのは、つり合っているのでしょうか?
―四宮―
いや、そこが釣り合わないんですよね…。やはりプライバシー権の侵害、プライバシーを含めて名誉権もそうですが、人権の侵害っていうのは、数値化できない損害部分なので・・・
アメリカは「懲罰的な損害賠償」があって、あまりにも悪質だから、これは1億…とか、そういった(巨額の)損害賠償を認める制度がありますけど、日本の場合は基本的にはそういう制度がないので、大体、人格権の侵害に関しても損害っていうのは「相場」ができてしまっている。
なので、例えばメディア、週刊誌とかメディアで言うと、その売り上げが どれだけ大きかったとしても、その売り上げに応じて損害が認められる、ということではないんですね…
映画製作・配給会社「スターサンズ」の社長でもある四宮さん。作品に出演していた俳優が有罪になったことを理由に助成金の交付を取り消された際には、「表現の自由」を守るため、最高裁まで争い、逆転勝訴を勝ち取ったこともあります。
―四宮―
「宮本から君へ」という映画に関して、助成金が不交付になった。その不交付処分の取り消しを行う裁判で、最高裁で勝訴して取り消すことができたんですが、あれに関しては、その助成金というものを使って、国や行政が一般私人の「表現の自由」にある程度 関与するというか ある種のコントロールをするというのは、これは由々しき問題でした。
ですから 対国、対行政との関係では 「表現の自由」は、絶対的に守らなければ 守られなければいけない というふうに思っています。
あの裁判を行ったときの想いとしては そういう想いだったんですが、一般私人の間において、「表現の自由」が絶対的であるべきかというと、そうではない。
やはり、一般私人のプライバシーは、「非常に高度に保護されるべき権利」なので、ここは必ずせめぎあって、全体的に制約を受けるものなので、「表現の自由」が大事で、私も表現活動に関わっている人間なので、「表現の自由」は非常に重要だと思いますけれども、それが「絶対的な権利」だとは全く思っていません。
―池田―
日本と海外を比較して、何かが まだ遅れているとの認識はありますか。
―四宮―
「判例が少ない」というのが一つありますね。日本の場合は やはりその裁判をすることに躊躇してしまう。裁判を起こしても裁判所の「和解」という形で解決がされると、どういった解決がされたかっていうのが 全くわからない。
アメリカなんかは「判例法」の国なので、判例の積み重ねがイコール法律なんですよ。日本の場合は、判例法ではなく「成文法」といって国会で定められた法律が法律なので、判例がきっかけで法律が変わることはもちろんありますけど、判例の積み重ねイコール法律ではない。なので(日本が)裁判をあまり行わない。という国であるということと、判例が少ない…
そうすると、どうなるかというと、例えばプライバシー権侵害のことに関しても、昭和30年代の「宴のあと事件」※判決で示した プライバシー権侵害になる「基準」があるんですね。
「宴のあと事件」※
「プライバシー」という言葉が民事裁判で最初に用いられた
「宴のあと事件」(東京地裁 昭和39年)の裁判。
判決では、「プライバシー権」について「私生活をみだりに公開されないという法的保障ないし権利」と定義。公開された内容が以下3点を満たす場合に権利の侵害が認められる事を示しました。
◆私事性:私生活上の事実または事実らしく受け取られるおそれがある事柄であること
◆秘匿性:一般的な感受性を基準にして公開して欲しくない内容であること
◆非公知性:一般の人々にまだ知られていない事柄であること
【担当:芸能情報ステーション】
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