福島県本宮市の「本宮映画劇場」が、開館110年の記念興行に取り組んでいる。11、12両日には東京都杉並区の劇場「ザムザ阿佐谷」で映画祭「わが町の映画館まつり! ~フィルム・スクリーン・映写技師」を開く。映画文化を陰で支える映画館や映写技術に光を当てたイベントで、今秋には地元で特別映画上映会も企画中だ。
本宮映画劇場が建てられたのは1914(大正3)年のこと。もともとは芝居や浪花節を上演する舞台兼公会堂の「本宮座」として建設されたが、やがて常設の銀幕が張られ映画が上映されるようになった。
3階席まである観客席がいっぱいになった当時の写真からは地元で愛された様子が伝わるが、テレビの普及などで映画産業自体が斜陽を迎える中、63年に一度は閉館した。
しかし、館主の田村修司さん(87)は父から引き継いだ映画館を「定年後にまた再開したい」と思いを抱き続けた。自動車のセールスマンに転身して働きながら、機材のメンテナンスを欠かさず、当時のフィルムやポスターなども保管。閉館から半世紀以上を経た現在、田村さんは本宮映画劇場で不定期の短期上映会を開催し、多くのファンが訪れている。
「カタカタカタカタ……」。スイッチを入れると、今はほとんど姿を消したカーボン式映写機が回り出す。戦火や東日本大震災を乗り越え、2019年の台風19号ではフィルムが水につかる被害が出たが、有志の協力で修復された。田村さんは「110年も残ったんだから、これからもみんなが楽しめる場所であり続けてほしい。ここは本当に『奇跡の映画館』なんだ」と笑顔だ。
田村さんの思いを受け継いで本宮映画劇場の「3代目」として活動する娘の優子さんは「インターネット配信が広がり映画を見る環境は変わりつつあるかもしれない。でも、映画館には映画館でしか味わえない空気があって、皆と楽しい時間を共有するワクワクとした気持ちをもっと知ってほしい」と話す。優子さんは都内の名画座でスタッフとして劇場運営を学んでいることから、東京でのイベント開催を企画した。かつて一番にぎわった秋祭りのシーズンに合わせて本宮映画劇場でも110年記念上映会を開く予定だ。
「わが町の映画館まつり!」は、全国各地の街に根付く映画館を取り上げたドキュメンタリーの上映に加え、映像作家や映写技師らが登壇するトークショー付き。11、12両日ともに午後1時半から本宮映画劇場が登場するドキュメンタリー「旅する映写機」(2013年、105分、森田恵子監督)を上映する回と、午後5時から北海道浦河町の映画館「大黒座」を取り上げた「小さな町の小さな映画館」(11年、105分、同)を上映する回がある。当日券のみ1500円で販売。
問い合わせは本宮映画劇場の電話(090・4042・3464)かメール(motomiyaeigeki1914@gmail.com)へ。【岩間理紀】
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。