黄色に染まるイチョウ並木を背景にスクラムを組むラガーマンと黒いスーツとヘルメット姿の人たち。子細に見ると、テニスやサッカーなどスポーツを楽しむ人たちの姿も見える。そして、黒い服の人たちの手にはのこぎりやチェーンソー。明治神宮外苑地区(東京)の再開発の進め方に違和感を覚えた美術家の宇佐美雅浩さん(51)が手がけた写真作品で、タイトルは「声なきラガーマン 神宮外苑 2023」。16日から25日まで、kanzan gallery(東京都千代田区東神田1-3-4 KTビル2F)で展示される。

《声なきラガーマン 神宮外苑 2023》 インクジェットプリント (C)USAMI Masahiro Courtesy Mizuma art

 神宮球場と秩父宮ラグビー場の場所を変えて建て替え、超高層ビル2棟を建てるという再開発計画は、生態系への影響が懸念されるなど反対の声も多いが、「大切なのは、分断ではなく調和。対立ではなく、建設的な議論を」と訴える。作品制作の趣旨に賛同した知人やボランティア、地元住民らおよそ130人の協力を得て昨年末、再開発によって生育への悪影響が懸念されるイチョウ並木の前での撮影にこぎ着けた。

 一見、黒い服を着た開発側と、それに反対するラガーマンらの対立構造に見えるが、「のこぎりを手にしているけれど頭を垂れている人がいるように、開発側、つまりシステムに組み込まれた人の中にも内心は反対という人たちもいる。そして『反対だけど声をあげるのは…』というラグビー関係者の声も聞く」と話すように、単純な二項対立ではないという。そのもどかしさと、政治的トピックに声を上げにくい日本社会への皮肉を、「声なきラガーマン」というタイトルに込めた。

美術家の宇佐美雅浩さん=2024年4月3日、東京都新宿区、時津剛撮影

 ライフワークとして、様々な文化や背景を持つ地域と、そこにまつわる人々らを一枚の写真に写し込む「Manda-la(マンダラ)プロジェクト」を続けてきた宇佐美さんは、広島や福島など政治性・社会性を帯びるテーマにも取り組んできた。今回、「開発そのものに反対ではないけれど、議論や同意なしになし崩し的に進む状況を変えたい」と思っていた宇佐美さんを後押ししたのは、「3.5%の人が本気になれば、社会は変えることができる」という、学者の言葉だったという。

 現在、事業者側の樹木保全策の提出の遅れと世論もあり、再開発による伐採は先送りになっている。宇佐美さんは「作品を見た人たちが少しでも考え、行動に移すきっかけになれば」と話している。(時津剛)

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