丸亀製麺の親会社、トリドールホールディングスはラーメンで中国に再挑戦する(左)写真:西村尚己/アフロ(右)トリドールホールディングス提供

うどんの「丸亀製麺」を展開する外食チェーンのトリドールホールディングス(以下、トリドール)が4月8日、豚骨ラーメンの店を中国・上海に出店する。

同社は2012年に丸亀製麺で中国進出し、ピーク時には69店舗を展開していたが、2022年に全店閉店した。

「はなまるうどん」も同年中国から撤退した。ニューヨークで1杯3000円でも大盛況だと伝えられるラーメンに比べると、うどんは外国人受けしないのか? 中国市場でうどんを引っ込めて、ラーメンで勝負をかけるトリドールに、鞍替えの理由と勝算を聞いた。

はなまるうどんと同じ年にひっそり撤退

2022年9月、はなまるうどんの中国撤退が親会社である吉野家ホールディングスの臨時報告書から明らかになった。

2011年に中国に進出したはなまるうどんは、2018年9月には37店舗まで増やし、マレーシア、インドネシアにも出店した。しかしいずれの市場も2020年以降に撤退し、2022年に海外店舗はゼロになった。

はなまるうどんの海外撤退は大きな話題になり、積極的に海外進出を図る丸亀製麺と「明暗が分かれた」と分析する記事も出た。はなまるうどんだけが目立ってしまったが、実は同じころ、丸亀製麺も中国から“サイレント”撤退していた。

2012年3月に中国に進出した丸亀製麺は、ピーク期の2018年には69店舗を出店していた。その後、2021年2月にトリドールは中国本土で丸亀製麺を展開してきた合弁会社の合弁を解消し、2022年10月までに全店閉店した。

巨大市場の中国は日本から多くの外食チェーンが進出を図ってきたが、100店舗以上展開できているのは吉野家、サイゼリヤ、すき家など数えるほどしかない。

日本食の中国での成功例として知られる豚骨ラーメンの「味千ラーメン」は、日本で味千を展開する重光産業からライセンスを受けた香港企業が実質的に経営を担っているため、中国では「中国系企業」と見なされている。

そう考えれば、撤退直前まで中国で50店舗以上を出店した丸亀製麺は日本企業の中では十分に健闘したと言えるが、2012年の進出時に目標に掲げていた「2015年に100店舗体制」には程遠い数字でもあった。

海外事業の責任者である杉山孝史副社長兼COOは、2022年の中国撤退について「コロナ禍のタイミングで、スピード感を持って店舗を増やしていくために、一旦仕切りなおそうと判断した」と説明した。

杉山孝史副社長兼COO(写真:筆者撮影)

丸亀製麺は2011年に海外初店舗としてハワイに出店し、成功を収めた。余勢を駆って翌年、タイ、中国と進出したが、「経験値が足りていない中で頑張ったものの、中国市場の大きさを考えれば物足りず、成長の限界を迎えていたのも事実」(杉山氏)と、思うように拡大できなかった。

2010年代後半は、中国人消費者の嗜好が多様化し、現地を知る中国企業が急激に成長していたため、海外の超大手チェーンも苦戦が目立っていた。

アメリカ・マクドナルドと、ケンタッキーフライドチキン(KFC)などを展開するアメリカのヤム・ブランズの2社は、2016年から2017年にかけて業績が低迷する中国事業を切り離し、現地企業に売却している。

ラーメンで再挑戦を持ちかける

「フランチャイズのノウハウをしっかり持っている相手と組んで仕切り直そう」と中国市場から丸亀製麺を撤退したトリドールは、中国の投資企業「上海睿筧創業投資管理有限公司」と新たにタッグを組んだ。

上海睿筧を率いる羅得軍氏は、2017年にマクドナルドの中国事業を買収した中国中信集団(CITIC)の元幹部で、同ブランドの立て直しとフランチャイズ展開に手腕を発揮した。

上海睿筧は「先行プレイヤーが市場を育てており消費者の受容度が高く、大都市の1、2級都市で高速で規模拡大できる」業態として、トリドールの20ブランドの中から、2017年にトリドールグループ入りし、日本で約90店舗を展開する姫路の豚骨ラーメン「ずんどう屋」で再度中国市場に挑戦することを提案した。

ずんどう屋のラーメン(写真:筆者撮影)

たしかに豚骨ラーメンのグローバルでの人気は高く、日本でも人気ラーメン店には外国人旅行客の長い列ができている。

「一風堂」のアメリカの店舗がラーメン一杯約3000円という値段にもかかわらず盛況なのはたびたび報じられているし、中国・上海にも「金色不如帰」や「麺や庄の」など日本の著名ラーメン店が複数進出し、人気を集めている。

ただ、中国の外食産業は競争が非常に激しく、客だけでなく好立地のテナントや人材も奪い合いとなっており、日式ラーメンも数店舗までは出店できてもそれ以上は容易ではない。

パイオニアの味千は2011年に「1000店舗計画」を掲げたが、「新鮮さが失われた」「競合の増加」などを背景に2019年の約800店舗で頭打ちし、2023年末の店舗数は558店まで減った。

杉山氏によると、レッドオーシャンを勝ち抜くためにずんどう屋は上海1号店でラーメン1杯の価格を36元(約750円)に設定した。

「味千など大衆的なラーメン店の1杯の価格は30元(約620円)台で、日本の著名店が上海で展開するラーメンは1杯45~50元(約940~1040円)。ずんどう屋は味千に近い価格で、10時間炊き上げた豚骨スープと素材にこだわった麺を使った本格的なラーメンを提供する。手ごろな価格でプレミアムな体験という日式ラーメンの空白地帯にポジショニングすることで100店舗は短期間に実現できる」(杉山氏)

丸亀製麺が期待通りに出店が進まなかったことを教訓に、トリドールは中国市場でのずんどう屋の展開において、上海睿筧にマスターフランチャイズ権を付与した。

トリドールは商品の品質や体験価値の維持に専念し、中国での外食フランチャイズのノウハウを持つ現地チームに立地選定や現地に合わせたメニュー展開などを委ねることで、スピード感のある拡大を目指すという。

中国の不況は追い風

気になるのは、トリドールの看板ブランドで一度中国から撤退した丸亀製麺の再進出の可能性だが、杉山氏は「丸亀製麺は最近進出したカナダでも非常に好調で、うどんもグローバルで十分に展開できると考えている。中国では消費者が体験価値を重視するようになり、蘭州ラーメンのような大衆ローカル麺でもブランディングして少し高い価格で規模拡大に成功した事例が出ている。ずんどう屋をはじめとした中国の消費者に受け入れられやすい業態でノウハウを蓄積し、時代にあった展開のしかたで再挑戦したい」と意欲を見せた。

中国は景気低迷が長期化し、消費マインドも悪化しているが、「丸亀製麺がリーマンショックでも業績を伸ばしたように、トリドールは景気耐性が強い業態を多く抱えている。景気が悪くなると消費者は価格に敏感になり、コスパの高さをより評価するようになる」と、不況が追い風になると自信を見せた。

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