女性は当事者同士で運営するシングルマザーらのコミュニティーサイトに寄せられた意見を指し示し、改正案への懸念を訴えた=福岡県内で2024年3月28日午後7時49分、青木絵美撮影

 離婚後の共同親権の導入を柱とする民法改正案が16日、衆院本会議で賛成多数で可決された。離婚した父母が子のために協力しあう機運が高まるとの指摘がある一方、家庭内暴力(DV)を恐れるひとり親からは現行の単独親権の維持を望む意見も上がる。導入の可否を巡る審議は参院に移る。

 4年前に離婚し、福岡県内で長女(5)と暮らす会社員の女性(33)は、自らの家裁での調停経験から「改正案は『子の利益』にならない」と批判する。

 妊娠を機に結婚したが、夫は夜に遊び歩くようになった。女性が臨月で退職した際、夫の求めに応じて毎月の家計見通しを示した。だが、項目に「夫の小遣い」とあるのを見て夫は激怒。「俺が養っている」と何度も夜通しで説教された。

民法改正案の主なポイント

 産後、夫は紙おむつなど子ども向けの出費も渋った。「主婦に人権はない」と言い、帰宅時に長女を入浴させていると「(夫を)迎えに出ろ」と激高した。生後半年たたずに別居した。

 家裁での離婚調停で、女性は夫のモラルハラスメント(言葉や態度による嫌がらせ)を訴えたが、認定には訴訟に踏み切る必要があった。「つらいことを何年も思い出すのは耐えられない」と、調停で親権と養育費の支払いだけ決めようと割り切った。それでも終結までに1年半を要した。

 改正案では、父母の協議で共同親権か単独親権か決まらなければ家裁が親権者を判断し、DVや児童虐待の恐れがある場合は父母いずれかの単独親権となる。

 一方、女性が他の当事者と運営するシングルマザーらのコミュニティーサイトには「モラハラから逃れられず被害者は被害者のままになる」などと反対の声が相次ぐ。女性も「暴行で出血したわけではなく、受診歴などの証明もない精神的DVなどを適切に判断できるのか」と疑問を呈する。

 役割が増す家裁の質の担保も気がかりだ。自身の調停では、家裁が事前の資料送付を忘れていた。夫と長女の面会交流は認めたが、「お父さんが元気になるから」と勧めてきた調停委員の発言には「まず子どもの考えが大事なはずだ」と感じた。「改正案には『子の意見の尊重』を盛り込むべきでは」。女性が注文を付ける。

 改正されれば既に離婚した夫婦も共同親権を選択できる。「離婚した人がまた調停に巻き込まれるのでは」との懸念は強く、女性は参院での審議を注視する。【青木絵美】

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