安倍晋三元首相の物まね芸人、ビスケッティ佐竹さん(41)が3月31、4月1日の2日間、安倍氏の地元・山口県下関市などを訪問し、住民や安倍氏の元支援者らと交流した。安倍氏の姿にふんした佐竹さんに対し、手を振る人や思い出話を披露する人や目頭を押さえる人がいた。喪失感を抱えながらも、安倍氏との記憶を大切に前を向こうとする住民たちの思いを佐竹さんは感じたという。
「若い頃、晋三さんと握手した」
佐竹さんが安倍氏の姿にふんして安倍氏ゆかりの地を訪れる企画「あべさんぽ」の一環。佐竹さんは安倍氏が令和4年7月8日に銃撃され死去した直後、心の整理がつかず、物まねを一時自粛したが、同年9月の安倍氏の国葬に参列した際、「やっぱり安倍さんを忘れたくない」と継続を決心。安倍氏の妻、昭恵氏の励ましもあり、再開に至った。
ただ、山口県にはなかなか訪れることができなかった。安倍氏にふんした姿を見せる事で、元支援者らに辛い記憶をよみがえらせる懸念があったからだ。しかし、X(旧ツイッター)で「あべさんぽ」の訪問先を3月初旬に募ったところ、山口県が最も多かった。1月に芸人の同期生が下関市で飲食店を開業するといったきっかけもあり、佐竹さんは心を決めた。
3月31日、下関市を訪れ、昭恵さんが全面協力して開業した複合型ゲストハウス「ウズハウス」や商業施設「唐戸はれて横丁」で交流会を開催。安倍氏に似せた所作やメークを施した佐竹さんに対し、参加者から「若い頃、晋三さんと握手したときの記憶を思い出すなあ」「またお目にかかるなんて…」「赤ん坊の頃、安倍さんに抱っこされました」といった声が漏れた。
翌4月1日は長門市油谷(ゆや)にある安倍家の墓所で手を合わせ、安倍氏に物まね芸の継続を報告した。
銃撃現場にはまだ行けない
下関や長門の街並みからは安倍氏のポスターは消えている。ただ、うぐいすの鳴き声やカモが泳ぐ水辺、見頃を迎えた桜の花など息をのむような田園風景を見て、佐竹さんは安倍氏が愛した光景なんだろうと感じたという。
住民や支援者は努めて明るかった。佐竹さんに物まねを始めるようになった経緯を尋ねたり、「事件があったけど、佐竹さんは頑張ってね」と声をかけたりした。安倍氏の人柄を思い出したとして、涙を流す人もいた。
今回の訪問を契機に地元の同窓会やロータリークラブ(RC)の会合などへの参加を求める声があり、佐竹さんは再度、山口訪問の機会を探っている。ただ、奈良市の銃撃現場に訪れることはできないという。
「いつかは必ず行き、(現場で)手を合わせないといけないと思うが、安倍さんが亡くなった場所を見に行くのが怖い。何かマイナスの方に引っ張られるというか、悲しい気持ちに追われてしまうのではないか。まずは自分の姿を見て、喜んでくれる人が多い場所に行こうと考えている」
「安倍さんは愛されていた」
今月14日には菅義偉元首相の官房長官時代の姿にふんする芸人のドラQさんと新宿御苑(東京都新宿区)を訪れた。多くの花見客が佐竹さんたちに温かく手を振ってくれた。記念写真を求める外国人に「Do You Know Me」(私が誰か分かりますか)と尋ねると「アベサン」「スガサン」と答えが返ってきた。
佐竹さんは「安倍さんにネガティブな報道があるけど、現場を歩くと安倍さんが愛されていた人だと実感する」と述べた上で、こう続けた。
「皆さん、安倍さんの喪失感を埋めたい気持ちもあると思うが、『安倍さんってこういう人だったよね』と、安倍さんのことをもっとしゃべりたいのだろう。安倍さんのポスターは消えたけど、町の人たちの心の中に安倍さんは残っているんだなと感じた」(奥原慎平)
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