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自民党の小林鷹之前経済安保担当大臣(衆議院当選4回、49歳)が8月19日、他の候補者に先んじて、総裁選(9月12日告示、27日投開票)への立候補を表明した。

その小林氏は立候補表明の前夜、当選同期で「中堅・若手の声を総裁選に反映させるべき」と訴える武部新氏(衆議院法務委員長)とともに、『BS朝日 日曜スクープ』に生出演。自民党を取り巻く現状への危機感や、自らの政策ビジョンについて語った。

1)「世界をリードする国に…、思いは1ミリも変わらない」

小林鷹之氏は2021年、岸田政権で初めて設けられたポスト「経済安全保障担当大臣」に就任した。その際、「私はもう一回 この日本という国を世界のど真ん中に立たせたい。世界をリードするような国にしたい」と発言している。これからの日本のあり方や、政権運営のビジョンについて、小林氏は今、どのように考えているのか。

小林氏と政策に関する議論を重ねてきた武部新氏(衆議院法務委員長)は、小林氏とビジョンを共有しているとした上で、言葉を続けた。

もうひとつ、私は地方出身ですので、地方の活力が国の発展の礎だと思う。地方は、教育もイノベーションも産業も大変。だからこそ、地方の力をどう発揮していくのかということも、このビジョンの中で議論する、非常に大切なテーマだと思っている。 末延吉正氏(ジャーナリスト/元テレビ朝日政治部長)は、小林氏の2021年の大臣就任時の発言について、次のように分析した。 「世界のど真ん中に」という小林氏の言葉、実は、亡くなった安倍晋三元総理がよく使っていた言葉でもある。小林氏がワシントンの駐米日本大使館に出向中の2009年、民主党政権が発足して日米関係が揺らぎ、日本の存在感が薄れているという危機感を抱いたからこそ、発した言葉ではないかと理解している。

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2)「失われた30年」と日本の今後 自民党内の危機感は…

2)「失われた30年」と日本の今後 自民党内の危機感は…

OECDによれば、1990年代以降の30年間、日本は平均賃金(購買力平価ベース)が上がっていない。この「失われた30年」のほとんどは自民党が与党だった。

今後の政権運営においての教訓、そして経済政策について、小林鷹之氏(前経済安保担当大臣)は以下のように語った。 この30年間はコストカット型経済で、とにかく投資を怠った。人への投資、設備投資、あるいは研究開発投資。それにより消費と投資が停滞して、デフレが長引いた。その反省に立って、第二次安倍政権以降、色んな取り組みをし、岸田政権でも賃上げの動きがあるが、加えて私が必要だと思うのは、新たな産業政策を打ち出していくことだ。分かりやすい例では、熊本に誘致したTSMCの半導体工場がある。工場の誘致により、熊本県に60社近い企業が新たに進出し、工場の設備を拡充して、雇用の機会が増えた。所得も上がり、国が本気でそこまでやるんだったら、日本の半導体産業の未来を自分たちが担おうじゃないかという意欲のある若者たちが集まってきて、地元の大学や高専で学ぶという流れが生まれた。若い方が来れば地方は活気づく。そういう産業の拠点、クラスター、塊が必要だ。世界をリードできるような産業を地方に、どんどん作っていく。それによって、日本全体の経済が活性化していくし、長年の懸案である、東京への一極集中の是正にも繋がっていくのではないか。武部さんの言う、「地方こそが日本の活力」という思いを、私も共有している。 小林氏とともに政策を議論してきた武部新氏(衆議院法務委員長)は、自民党内の強い危機感を指摘し、今回の総裁選のあり方について問題提起した。 昨年、政治資金の問題が起きてから、地元に帰るたびに、大変厳しい声を受ける。この総裁選は、我々に最後に与えられたチャンスなのだろう。自分たちが新しいリーダーを選び、そのリーダーの国家ビジョン、未来への思い、そして今、生活に苦しんでいる方々への支援、そういったことも含めて政策を発表して、しっかりと自分たちが選択をしないと自民党の未来はないし、自民党を選んでいただけない。一番大切なのはリーダーがどんなビジョンを掲げるかということだ。選挙で有利か不利かで選ぶことはあってはならない。国民に見透かされるだけだ。我々中堅、若手が、この総裁選の中で自民党を変える原動力になる必要があり、我々の中から総裁候補を作るべきだとの思いで、これまでも仲間と議論してきた。そのリーダーに立つのが「小林さんだといいね」という声は多くある。

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3)「中堅若手議員の間で自然発生的に…」問われる総裁選のあり方

3)「中堅若手議員の間で自然発生的に…」問われる総裁選のあり方

自民党の福田達夫元総務会長ら、安倍派の若手議員9人も8月8日、総裁選に向けた対応を協議した。ここでも、世代交代を印象付けるような総裁選にすべきという考えで一致したとされる。

小林氏、武部氏はともに二階派の出身だが、支持拡大に向け、派閥の枠を超えて連携しているのか。武部新氏(衆議院法務委員長)氏は、以下のように力説する。 前回の総裁選の時も、福田達夫氏とともに「党風一新の会」を立ち上げて、派閥主導で総裁選をしないでほしいと訴えた。新型コロナもあり、国民の間に閉塞感、不満や不安が広がる中、派閥の力学だけでトップを決めるというのはおかしいと。国民と向き合って、政治家が1人1人、国民の声を聞いて、誰がトップにふさわしいか選ぼうと。今回は、まさに派閥がなくなっていて、議員それぞれが国民、党員の声を聞いて、自分の考えで自民党のリーダーを決めていく、国のリーダーを決めていく、こういう流れを作っていくことが大事だ。興味深いことに、小林氏の名前が出るのも、中堅若手が先頭に立ってこの総裁選を開かれたものにしなければという声も、どこかで集まって話したわけではない。今ある危機感が、中堅若手の間で小さなグループをいくつも産み、自然発生的に声が大きくなっている。 前回の総裁選で「党風一新の会」も取材した末延吉正氏(ジャーナリスト/元テレビ朝日政治部長)は、宏池会をつくった池田元総理に対し、福田達夫氏の祖父、福田赳夫氏が派閥解消を唱え「党風刷新連盟」を立ち上げたことに言及し、以下のように指摘した。 自民党は、過去にやってきた良きものや様々な流れを、経験則として引き継いでいくという意味で、革命政党ではなく保守政党だ。長く永田町を取材してきて、歴史はつながっていると感じる。こうした流れの中で、今回の選挙が、「困ったら人気者を持ってくる」というポピュリズム的な手法ではなく、今や自民党の最大勢力である衆議院当選4回以下の議員たちから動きが出ていることに期待したい。最終的には旧派閥のまとまった票をバックにした候補者も出てくるだろう。中堅若手を中心に、もう自由にやるのだと出てきた武部氏や小林氏の活動には、相当圧力がかかるだろうし、メディアの中からも色々な声が出ると思う。しかし、そういうものに対してもきちんと答えを出して、自民党が「政治とカネ」の問題に対しての反省からスタートして、日本をこうやるんだということを示せるか。そこへ至る1ヶ月になるかどうかだ。立憲民主党も代表選(9月7日告示、23日投開票)を行う。 最後に小林鷹之氏(前経済安保担当大臣)は、以下のように今後への意気込みを語った。 今、自民党が置かれている状況は厳しい。その認識をしっかりと皆で共有した上で、でもやっぱり国の舵取りは自民党しかないんだ、自民党に任せたい、と思ってもらえるような自民党を新しく作っていけるように、仲間と一緒にこれから党一丸となって頑張っていきたい。1人1人が考えて、考えて考え抜いて自分と向き合って、これだという形で、この総裁選に皆で臨むしかない。

<出演者>

小林鷹之(前経済安保担当大臣。東大卒で元財務官僚。ハーバード大学大学院修了。防衛政政務官などを歴任。当選4回。愛称「コバホーク」)

式部新(衆議院法務委員長。日本興業銀行勤務を経て米留学。父・勤氏の秘書を経験。農林水産副大臣などの要職を歴任。衆院議員を4期)

末延吉正(元テレビ朝日政治部長。ジャーナリスト。永田町や霞が関に独自の情報網を持つ。湾岸戦争などで各国を取材し、国際問題に精通)

(「BS朝日 日曜スクープ」2024年8月18日放送分より)

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