希望すれば夫婦のそれぞれが結婚前の姓を名乗ることができる「選択的夫婦別姓制度」導入を巡り、自民党総裁選の立候補予定者の間で賛否が割れている。党内では「伝統的家族観」を理由に消極論が根強いが、6月には経団連が提言を発表するなど、早期実現を求める世論は高まっている。導入を求める団体は「周回遅れ」の論戦が展開される現状を厳しく批判する。

◆保守層の支持取り込み狙う?

 「(旧姓の通称使用拡大で)ほとんどの不便は解消される」。高市早苗経済安全保障担当相(63)は9日の出馬会見で、自身が作成した旧姓の通称使用に関する法案の成立を優先させる方針を示し、選択的夫婦別姓制度には否定的な考えをにじませた。

高市早苗経済安全保障担当相=9日、佐藤哲紀撮影

 高市氏は7月のインターネット番組でも「家族一体とした氏は残したい」と話している。これらの主張には、伝統的家族観にこだわる安倍派などの国会議員や、関連団体から手厚い支援を受けたいという思惑が透ける。  小林鷹之前経済安保担当相(49)も、高市氏同様に反対姿勢だ。8月の出馬会見では、マイナンバーカードや住民票で旧姓の併記が認められていることを踏まえ、周知徹底で「ニーズに応える」と話した。

◆「新たな選択肢」経団連は歓迎

 一方、小泉進次郎元環境相(43)は9日、経団連の十倉雅和会長らとの懇談後に「別姓を選択したい人に新たな選択肢を用意する社会をつくる」と賛成の立場を記者団に強調した。導入を認める法案提出の方針を経団連側は歓迎したという。

小泉進次郎元環境相=6日、中村千春撮影

 小泉氏は、反対派による「家族の中で名字が違うと絆の崩壊につながる」との指摘に対し、「私自身、両親が離婚して弟や母と名字が違うが、絆は強い」と反論した。  石破茂元幹事長(67)と河野太郎デジタル相(61)も8月の出馬会見で、それぞれ推進の立場を表明。林芳正官房長官(63)や茂木敏充幹事長(68)は「世論の集約が大切」などとして、立場を明確にしていない。

◆「要綱」どまりで30年近く経過

 選択的夫婦別姓を巡っては、1996年に法制審議会が導入の改正法案要綱を答申。自民の保守派が反対して30年近く国会に提出されないままたなざらしになっており、法曹界からも実現を求める声が出ている。  制度導入を求める一般社団法人「あすには」の井田奈穂代表理事は「選択的夫婦別姓はジェンダー平等の第一歩。旧姓使用拡大では問題は解消しない」と指摘、「推進しない国に優秀な人材も投資も集まらない。いつまでこの状態を続けるのか」と訴える。(坂田奈央、近藤統義)

 選択的夫婦別姓制度 1996年に法制審議会が導入の改正法案要綱を答申したが、自民党保守派の反対で法案は国会に提出されていない。世界各国は法整備を進め、日本でも法曹界などが制度実現を求めている。



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