兵庫県明石市の前市長で衆院議員の経験もある泉房穂さんに、「庶民的な立場からの本音トーク」で、政界に直言していただきます。

 今回は自民党総裁選で勝利して新政権を発足させ、衆院総選挙に臨む石破茂さんの話です。論点はどこを向いて政治をしているのか、リーダーシップの在り方という二つです。

◆なぜ、石破さんの国民人気は高かったのか

 国民は政治家に対し、お金をくれる企業・団体といった人たちを見るのではなく、国民の方を向いて国民のための政治をしてほしいと願っています。その願いに対する裏切りの象徴が金権政治です。自民党の派閥裏金事件に対する国民の怒りが収まらないのは、国民の生活が苦しいこととつながっています。国民は働いても働いても手元の金が増えないのに、なぜ国民の代表である政治家が国民のことを考えずに、お金をくれる人を向いて偏った政策を考え、私腹を肥やすのかと怒っている。

首相官邸に入る石破首相

 なぜ石破さんの国民人気が高かったかというと永田町ではなく、国民の方を見ている政治家だと期待されたからです。

◆総裁になった途端、発言がぶれた

 自民党総裁選は4階建ての構造です。1階は国民全体、2階は自民党支持層、3階は党員、4階は国会議員。ボリュームは1階から順に10、5、2、1ぐらいのイメージ。上に行くほど左が欠け、極端に右に偏った建物です。  石破さんは最初、1階の国民に向けてしゃべっていて、途中から2階の自民党支持層を相手にしていたけれど、党員向けに一気にかじを切ったために発言がぶれました。総裁に当選した瞬間に4階の国会議員しか見なくなり、手のひら返しと批判を浴びています。

◆ひどすぎる早期解散 永田町を向いた閣僚人事

 石破さんが手のひら返しをした(1)衆院の早期解散(2)自民党役員と内閣人事(3)裏金議員の衆院選公認ーの3点について考えます。

記者会見する石破茂首相

 石破さんは総裁選の討論会などで、全閣僚出席の予算委員会を開き、国民に判断材料を提供してから解散するのが妥当だと発言していました。それが予算委なしで解散ですからひどすぎる。首相になっていない段階で解散日程を明かしたのもルール違反です。解散権は首相にしかありません。  閣僚人事も国民を見ていない。女性閣僚は岸田政権の5人から2人に減った。初入閣が13人というけれど平均年齢は上がってしまった。要は自分を支持してくれた党内の陣営に配慮した「在庫一掃」です。民間登用もありませんでした。私もひそかに期待していましたが、スマホは鳴りませんでした(笑)。子ども担当相に指名されたらできる自信はありましたが。明らかに永田町を向いた人事で、国民のための仕事をする内閣ではない。

◆裏金議員の公認、だんだんと緩んでいった

 裏金議員の公認問題について、石破さんは総裁選のスタート段階では一番毅然(きぜん)とした発言をしていた。それが原則公認と報じられるなど、だんだんと緩んでいった。国民世論が反発した結果、微修正したけれどもう遅い。

初閣議後、記念撮影に臨む石破茂首相(前列中央)と閣僚ら

 筋論で言うと、裏金問題を不問に付さないというのであれば、非公認でお茶を濁すのではなく、2005年の郵政選挙のように、裏金議員に自民党の公認候補を対抗馬として立てるべきです。無所属で当選したらみそぎが済んだという古い政治は間違っています。  次にリーダーシップ論です。首相や首長などのリーダーには方針決定権と予算編成権、人事権がある。公認権は人事権の最たるものだから、リーダーが覚悟を決めれば裏金議員を非公認にすることができます。強大な人事権を行使すれば、国民の方を向いた内閣をつくることもできます。

◆石破さん、まだ道は残っていますよ

 自分の兵庫県明石市長時代を振り返ると、最初が肝心です。石破さんは首相になる前に人事や解散の問題でリーダーシップがないことを露呈してしまった。リーダーにはトップダウン型と調整型があります。石破さんはそもそも党内調整に向いていないのだから、慣れないことをしても無理。だからちゃんと国民の方を向いてリーダーシップを発揮してほしかった。  ただ、石破さんにはまだ道は残っています。石破さんは若いころから政治改革を掲げてきているし、言葉や政策を大事にし国民を向いた政治家として評価されて首相になれた。慣れていない永田町政治に染まろうとしても無理なのだから、原点に戻り、国民の方に振り向いてほしい。1回手のひら返しをしたんだから、手のひらをもう1回返して元に戻したらいいんですよ。

 泉房穂(いずみ・ふさほ) 1963年生まれ。兵庫県出身。NHKディレクターなどを経て司法試験合格。2003年衆院選で当選。2011年から明石市長を12年務め、中学生の給食費など「5つの無料化」を市独自で実現した。



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