高市早苗氏の自民党総裁選の「関西総決起大会」で前にずらりと並んだ奈良2区の首長や県議。3区の首長の姿はなかった=大阪市で2024年9月18日午後7時46分、川畑岳志撮影

 1996年に小選挙区制度が始まってから10回目となる今回の衆院選は、解散から投開票までわずか18日と、2021年の前回選から2回連続となる短期決戦となる。奈良県内では自民が強固な地盤を背景に勝利を続けてきており、今回も2区前職の高市早苗前経済安全保障担当相(63)と3区前職の田野瀬太道氏(50)の優勢は揺らがないとの見方が強い。だが、ほころびはないのか。15日の公示を前に現状を探った。

 「顔見てもらったら分かると思いますが、まだ(自民党総裁の座は)諦めてません。仲間たちが選挙に通るよう、全国を回ります」。高市氏は11日、天理市内で開いた「緊急合同会議」で、約1000人の支援者らを前に語りかけ、総裁選の支援への感謝と、衆院選への協力を呼び掛けたという。終了後は全員と握手して見送った。

 2回目の挑戦となった9月の総裁選では決選投票で石破茂氏に敗れたが、1回目の投票では党員から厚い支持を得て1位通過。初の女性総裁へあと一歩に迫った。

 県選出国会議員では堀井巌、佐藤啓両参院議員に加え奈良1区の前職、小林茂樹氏が早々に支持を表明。「一丸となって奈良から初の女性総理を」を合言葉に高市氏の地盤の奈良2区内の首長や1、2区の地域選出の県議らが中心となって街宣活動を展開した。その結果、投票総数の約8割となる6005票を獲得。県内の支持の盤石ぶりを見せつけた。

 高市陣営の関心は衆院選を超えて次期総裁選に向かっている。「衆院選は地元の人間に任せてほしい。(自民党総裁選で)お世話になった人の応援にどれだけ動けるかが次につながる」(陣営関係者)と捉えており、投開票まで全国各地を飛び回るという。

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 総裁選で高市氏が県内党員票の約8割を獲得し、県内自民党の末端は一体感を高めたかにみえる。だが、幹部らの間では、そうとも言い切れないようだ。

 県選出の国会議員では、3区前職の田野瀬氏が当選同期の小林鷹之元経済安保担当相(千葉2区前職)の推薦人に名を連ねた。ある関係者は「推薦人にまではならないと聞いていたのに」と分裂が明白になったことに衝撃を受けた様子だった。

 高市氏が9月18日に大阪市で開いた総裁選の「関西総決起大会」でも、支援者らが前に一列に並び、口々にエールを叫んだが、その中に3区の首長や自民県議はいなかった。県連が一枚岩になったとは言いにくい状況だった。

 高市氏と田野瀬氏の関係について内情に明るい関係者は「2人が直接仲が悪い訳ではない。ただ、両陣営は前回衆院選よりも前からしこりがある」と声を潜めた。それまでは冗舌だったのに、わざわざ「(録音を)とってないですよね?」と確認。肝心の「因縁」の具体的な中身についてははぐらかした。

 懸念材料は他にもある。高市氏は23年4月にあった知事選で、県連会長(当時)として候補者の一本化に失敗し、県連が分裂状態に陥った。自身が総務相の頃に大臣秘書官を務めた元総務省課長の擁立を主導し、県連として元課長の推薦を決めたが、一部の県議が反発して当時の現職を推したためだ。日本維新の会の山下真知事(56)が漁夫の利を得て当選する形になった。

 前知事の支援者には、高市嫌いを訴える県議らも残り、不満は根強い。高市陣営の関係者も「知事選のしこりが癒えたとは到底言えない」とこぼす。

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 田野瀬氏の地元、3区ではさざ波が立つ。

 「奈良なのに、なぜ高市さんを応援しないのか」。自民党総裁選で高市氏以外の候補の推薦人になった田野瀬氏の陣営には抗議の電話が相次いだという。

 田野瀬氏は、民主党(当時)による政権交代が実現した2009年衆院選でも揺らがなかった強固な地盤を父良太郎氏から引き継いでおり、5選を目指す。陣営は「3区は独立国ですから」と自信をのぞかせるが、ある関係者は「票は取れるだろうが、風当たりはきつい選挙戦になるだろう」と懸念を示す。

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 短期決戦に打って出た側として県全体で前回を超える票を得られるのか。道筋は見えない。【川畑岳志】

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