大人に代わって日常的に家事や家族の世話をする「ヤングケアラー」の重い負担が近年、社会問題として着目されている。今年6月、改正子ども・若者育成支援推進法が施行され、自治体が支援に努めるべき対象としてヤングケアラーが明記された。支援の法制化は一歩前進だが、全国の自治体に十分浸透しているとは言えず、衆院選でも主要な争点になっていない。当事者は政治に対し、実態に即した支援を求めている。(坂田奈央)

 ヤングケアラー 慢性的な病気の親の介護や幼いきょうだいの世話などを日常的にしている子どもや若者。以前は18歳未満と区切られることもあったが、ヤングケアラー支援を明記した法改正により、ケア負担で働けないなど支援が必要な18歳以上の若者も対象に含まれるようになった。政府が2021年に発表した中高生の実態調査では、1学級につき1〜2人のヤングケアラーがいる可能性が明らかになった。

◆「どうしたの、と聞いてくれる人が必要だった」

 「いつも気が休まらず、疲れていた」。小学生の時から成人後まで精神疾患の母など家族のケアを担った茨城県のフリーターの女性(42)は振り返る。  家にいる間は常に家族の見守り。母が不安定な時は家事の補助も必須となり、習い事をしたいとは言えなかった。感情を殺して日々を過ごし、自身も度々体調を崩した。20代でパニック障害とうつ病を発症。30代後半まで薬を手放せない生活を送った。「心の中ではいつもSOSを発信していたけど届かなかった。『どうしたの』と聞いてくれる人が必要だった」  法整備を受け、各自治体はヤングケアラーの把握と支援をする体制作りを進めることになったが、対応にはばらつきがある。  女性は自治体に、家事支援などの生活補助だけでなく、ヤングケアラーの声を受け止めて細やかな支援につなげるよう求める。「無感情で過ごす子どもを増やしてはいけない。問題を抱える家庭が孤立化しない仕組みをつくってほしい」と願う。  衆院選公約では、立憲民主党がヤングケアラーを早期に発見して関係者と情報共有する体制構築の推進を掲げ、国民民主党が、当事者やその家族への支援を恒常的に行うための新法の制定を目指すとした。自民党などは具体的な記載がなかった。    ◇  ◇

◆「政府はより具体的な支援手法を示して」

 15歳から難病の母を17年間介護した経験を基に支援活動に取り組む一般社団法人ヤングケアラー協会の宮崎成悟代表理事(35)に聞いた。  —ヤングケアラー支援法の施行から4カ月たった。  「これまで支援の地域差が大きく、対応に前向きな関係機関が少ないことが課題だった。法律は自治体や学校などに支援の取り組みを促しており、一律の支援につながるといい」

ヤングケアラー協会の宮崎成悟代表理事=東京都目黒区で

 —どんな支援が必要か。  「子どもたちが自分で声を上げるのは難しく、周囲が気づいて支える体制が必要。これまで通学や食事ができていればそこまで問題視されず、ケアの重い責任を負う実情が見過ごされてきた。勉強や部活動ができなかったり、精神面で不調をきたしたりして立ち直れなくなるケースも多い」  —18歳以上の若者も支援対象にすると明文化した。  「意義はとても大きい。一方で、現場からは『何をすればいいかわからない』という声も聞く。自治体に支援担当者の配置を促しているが、対応は必ずしも追いついていない。政府には本年度策定するというガイドラインで、より具体的な支援手法を示してほしい」  —政治に求めることは。  「ヤングケアラー支援が法制化されたとはいえ、全国ではまだまだ浸透していない地域もある。丁寧に進めてほしい」 

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