アメリカの実業家イーロン・マスク氏の団体が大統領選の激戦州でトランプ前大統領の主張を支持する有権者に配っている多額の報奨金について、米司法省が連邦法違反の疑いがあるとして団体に警告したと、米メディアが報じた。かたや日本でも、自民党が非公認候補側に支給した2000万円の活動費に批判が収まらない。投票間近に浮上した日米の「お金配り」の問題を読み解くと…。(木原育子)

◆有権者への現金配布はさすがに禁止されていた

 マスク氏が設立した団体は、共和党候補のトランプ氏を支持する文書に署名した有権者のうち抽選で毎日1人に100万ドル(約1億5000万円)の報奨金を配っている。マスク氏には、銃所持の権利擁護などを訴えているトランプ氏を後押しする狙いがある。

イーロン・マスク氏=2011年7月、福島県相馬市で

 連邦法は登録有権者への現金の配布を禁止しており、民主党関係者から違法性を指摘する声が上がっていた。複数の米メディアによると、司法省の選挙関連の不正を調べる部署が、違反の可能性を警告したという。

◆「カネで票を買うやり方」積み上げ効果には疑問

 識者の受け止めはどうか。明治大の海野素央教授(異文化コミュニケーション論)は、「米大統領選ではこれまでも巨額資金が飛び交ったが、さすがにこのやり方はなかった」とあきれる。僅差の接戦とみられる今回の選挙。海野氏は「ほんの少しでも票を積み上げた方が勝ち抜く。トランプ氏は中間層を取り込もうと必死だが、カネで票を買うようなマスク氏のやり方は票の積み上げはおろか、中間層の不快感や怒りさえ買いかねない」と指摘する。

前沢友作氏がマスク氏の行動についてポストしたXの投稿(スクリーンショット)

 マスク氏の援護射撃が、逆効果にもなりうる事態のようだ。2019年1月に「お年玉」としてフォロワー100人に現金100万円をプレゼントした実業家の前沢友作氏もすかさず自身のX(旧ツイッター)で「お金配りはもう古いよイーロン」と投稿した。

◆「政党支部に出したというのは単なる建前」

 翻って日本。衆院選も後半になって、自民党が非公認とした候補が代表を務める党支部に2000万円のお金を配っていたことが発覚。「裏公認」と批判を強める野党に対し、石破茂首相(党総裁)は「非公認候補ではなく政党支部に出した。選挙に使うことは全くない」と火消しに躍起だ。  これに対し岩井奉信(ともあき)日本大名誉教授(政治学)は「政党支部に出したというのは単なる建前」と言い切る。政党を会社組織に例え「政党本部が本社、政党支部は支社の扱いだが、実際はフランチャイズで支部は支部長のもの」として「選挙に使わないと言っても、立て替えた経費は選挙後に今回のお金でまかなえる。『公認はできないが、これを使って』という極めて自民党らしい温情」とみる。

◆日本には「ブラックボックス」が

 ただしこれは一政党の問題にとどまらない。想起されるのは「ブラックボックス」と批判されてきた「政策活動費」の問題だ。  「こちら特報部」は2021年に「政治資金の抜け穴」キャンペーンを展開。使途が公開されない政策活動費について旧民主党の幹事長経験者が取材に応じ、「党公認ではない候補者に資金援助する際の資金は、表に出しにくい。将来的に仲間にしたい時に支出してきた」と明かしていた。

新議員を待つ衆院本会議場(資料写真)

 裏金事件を受けて今年6月に成立した改正政治資金規正法は、政党の収支報告書に政策活動費の大まかな項目別の金額や年月の記載を義務付ける。「政策活動費は使いづらく、非公認候補にはそもそも配れない。今回は本音と建前の矛盾が非常によく表れたケース」と岩井氏は指摘する。  日米で浮上した選挙さなかのお金の問題。岩井氏は「事案が違い単純比較はできない」としつつも「米国は日本とは比べものにならないほど多額の資金が飛び交うが、大統領選が近づくと2週間ごとに使途をしっかり公表する。だが、日本は何に使っているのかさっぱりわからない。金額は米国の方が大きいが、問題なのは断然日本の選挙資金だろう」と総括した。 

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