「当確早すぎ」は不正ではありません
「期日前投票の書き換え」もありません
「機械が票を操作」はありません
「終盤に逆転は不正」ではありません
専門家 “日本でも油断できない”
旧ツイッターのXやTikTokで、候補者の当選確実を伝える地元テレビ局の映像とともに拡散しました。NHKが確認したところ、選挙結果に疑問を持った人々や、ロシアを支援するような投稿を繰り返しているまとめサイトなどが拡散させ、投稿は26日正午までに合わせて3000万回以上、閲覧されていました。
この選挙では、午後8時の投票終了とほぼ同時に、報道各社が「当選確実」を報道しました。この時点では、選挙管理委員会がまだ票の発表をしておらず、このことが不正の証拠だと主張しているのです。しかし、これは偽情報です。
では、いったいなぜ「当選確実」と報道することが可能なのか。NHKのケースで紹介します。当選確実とする根拠になっているのが「出口調査」です。投票所で投票を終えた人に「誰に投票したか」を聞くもので、熊本県知事選挙でNHKは32の投票所で3830人を対象に行い、73.3%にあたる2807人から回答を得ました。
この結果を分析すると、統計学的に有意な差が付いていることが確認でき、事前の情勢取材も踏まえ、「当選確実」を出すことが可能になりました。いちはやく選挙結果を伝えるために、報道各社が選挙管理委員会の発表とは別に判断しています。
「票が差し替えられる」「鉛筆で書くと書き換えられる」などとしており、今回の衆議院補欠選挙でも出回っています。そんなことが本当に可能なのか。川崎市選挙管理委員会で40年以上選挙事務に加わり、今は国内外の選挙事務に助言を行っているプロは…
選挙制度実務研究会 小島勇人理事長「途中で改ざんしたり、途中で何かを入れたりすることはできない、そういう仕組みになっています」
小島さんによると、投開票日の一般的な事務の流れは以下のとおりとなっていて、不正が入りこむ余地はないといいます。
投票箱に票が入っていないことを確認する「ゼロ票確認」をしてから開票作業が始まるまで、誰も投票箱に入った票に触れることはできません。開票作業は衆人環視のもとで、繰り返し票の確認が行われます。
小島理事長「期日前であっても、そうでなくても、不正の入り込む余地はないんです。それは断言してもいい」
「投票用紙が水増しされている」「別のものとすり替えられる」という偽情報についても。
小島理事長「投票用紙の印刷には高度な技術が必要です。セキュリティも厳しく、試し刷りした用紙も厳重に保管されていて、選挙後には選挙管理委員会立ち会いのもと、原版とともに処分しています。投票用紙は選挙ごとに違いがあり、過去のものや偽造したものを使っても当然すぐにバレて無効になります」
小島さんによると、これまで自治体職員が票数が合わないミスを隠蔽する「不正」はありましたが、いずれも発覚し、懲戒処分や刑事罰の対象となっているとしています。
小島理事長「選挙事務の仕事やって50年になりますが、特定の候補者を当選させる、させないという不正行為について見聞きしたことはありません。日本の選挙制度の正確性、厳格性、これは世界に冠たるもの。そういう風に言って過言はない」
もう1つ、日本の選挙に関する偽情報で何度も名指しにされているのが「ムサシ」という会社です。開票の際、票を仕分ける「分類機」や、票を数える「計数機」の大手で、多くの自治体が選挙事務に導入しています。
SNSなどでは「ムサシのシステムが一定の政治勢力の影響を受けて操作されている」とか「票が書き換えられる」とする偽情報が10年以上前から広がってます。選挙などのたびに関連する投稿が拡散、多いときには3万件近くみられます。実際に操作は可能なのか、会社に取材しました。
機械に投票用紙をセットすると、スキャナーが記入された文字を読み取り、読み取った文字をパソコンで識別、候補者ごとの箱に票が振り分けられていきます。1分間に660票というスピードで票を分けていますが、票を書き換えたり、差し替えたりするような機能はありません。
広報担当者「票が隠れてしまうとそこで何か行われているという疑念もあったりするもので、当社の選挙の機械のうち開票所で使われるものは、票の流れが見える形を設計の方向性として考えております」「現在も正確性を高めるための努力を企業としてやっています。こちらの機械を通ったものを選挙管理委員会の方、選挙の従事者の方々に人の目で2回確認いただいて、正確性を保っていられるのではないかとも考えております」
また、特定の政治家の意図をくんでシステム開発をしていることはあるか問いましたが、「全くございません」と明確に否定しました。
このほかにもたびたび飛び交う偽情報が「開票の最終盤で逆転するのは不正が行われたからだ」というものです。選挙の開票は人口が少ない町村部では早く終わり、人口の多い都市部では時間かかります。激しく競り合う選挙戦では、序盤に町村部でリードしていた候補が終盤になって票数の多い都市部の票が合算された際、逆転されることがあります。また、珍しい形で不正だという偽情報が広がったケースも。去年4月の衆議院千葉5区の補欠選挙では、「ラスト1分で6000票、不正選挙だ」とする偽情報が広がりました。
この選挙では午後11時の時点で、英利アルフィヤさんと矢崎堅太郎さんが1000票差という激しい争いとなりました。ところが、終盤に英利さんにだけ6000票が入り、不正を疑う声が相次ぎました。
取材すると、この6000票の中に、投票先がはっきりわからないと判断される「疑問票」が多く含まれていることがわかりました。英利さんの名前は「アルフィヤ」が正しいのですが、「アルフェア」や「アリフィア」などと間違えて書く人もいて、取り扱いをどうするか、現場で1票ずつ確認がされていました。この作業に時間がかかり、終盤になって英利さんの票が増えることになりました。疑いを持った一部の人たちが裁判を起こしましたが、東京高等裁判所で訴えは退けられ、その後、原告の敗訴が確定しました。
選挙に関する偽情報は各国でも見られ、社会に深刻な影響を与えています。アメリカでは前回、2020年の大統領選挙で、トランプ氏が「選挙結果が盗まれた」と発言。選挙の結果が「不正」だと主張しました。
この際は、「バイデン氏の票が終盤、短時間に急増した」「郵便投票でトランプ氏の票が大量に捨てられた」「ドミニオン社の投票集計機に不正がある」などという偽情報が大量にSNSで拡散しました。トランプ氏自身もこうした情報を発信。
そして2か月後。トランプ氏の支持者らが連邦議会議事堂に乱入し、警察官など5人が死亡する事態に発展しました。選挙結果の無効などを求めトランプ陣営などが起こした裁判は、連邦最高裁判所で退けられています。選挙に関する偽情報の影響はアメリカ以外でも。
ブラジルブラジルでも去年、選挙で不正が行われたと主張していたボルソナロ前大統領の支持者らが議会などを襲撃し、1300人以上が起訴されました。インドネシアインドネシアでも過去の大統領選挙で「選挙管理委員会がコンピューターをセットした」などとする偽情報が広がり、選挙に対する不信感が高まることにもつながったとされています。
専門家は偽情報によって民主主義の根幹が揺らいでいると指摘します。
慶応大学法学部 烏谷昌幸教授「アメリカの大統領選挙では、一つ一つの偽情報は完成度が高くなくても、大量に次から次へと出てくることで、支持者らが“選挙には不正がある”という揺るぎない確信を持つようになった。世論調査を見てみると共和党支持者の6割から7割が一貫して選挙に不正があったと考え続けています」「多くの人が選挙制度に対し、相当強い不信を持ち続けているという状態がいまなお続いている。民主主義の制度の根幹が揺らいでいるのです。こうした陰謀論を政治的なリソースとして使おうとする権力者が出てきた時は1番危ない。今後の選挙で何か不利なことがあったとき、より大規模な実力行使に進んでしまう可能性さえある」「日本でも不正選挙陰謀論のようなものを心から信じ込んでいる人が増えている。静かに着実に広まっているので、注視していく必要がある。油断はできないと思います」
選挙の際には、「仕組み」に関する偽情報だけではなく、各党の掲げる政策や候補者本人に関する誤情報や不正確な情報が広がりやすくなります。烏谷教授は、以下のようなことに気を付けてほしいと呼びかけています。
1 選挙期間中は真偽不明の怪しい情報が多く出ることを知っておく2 嘘だと簡単に見抜けないものもある。見極められると過信しない3 自分が共感する内容でも正しいのか疑う。複数の情報源を確認4 真偽がわからない情報を拡散しない。静観することも大事
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