28日投開票の衆院東京15区補欠選挙は、9人が出馬する激戦となっているようだ。
共同通信が21日に報じた東京15区の情勢調査では、立憲民主党の酒井菜摘氏がやや先行し、日本維新の会の金澤結衣氏と、日本保守党の飯山陽氏が追う展開だという。無所属の乙武洋匡氏は伸び悩み、無所属の須藤元気氏、無所属の秋元司氏、参政党の吉川里奈氏、つばさの党の根本良輔氏、NHKから国民を守る党の福永活也氏は支持が広がっていないとしている。
数理政治学の命題として「デュヴェルジェの法則」がある。これは、選挙区でN人を選出する場合、候補者はN+1人に収束していくというものだ。これは経験則だったが、ゲーム理論からの数理的な基礎もある。1人(N=1)しか当選しない小選挙区であると、候補者は2人に収束するので、2大政党制になっていく。
ただ、日本の衆院の小選挙区制は、純粋な小選挙区制ではなく、小選挙区比例代表並立制なので、2大政党制に収束するものではない。
これまでの東京15区をみると、1996年から2021年まで補選を含めて10回の国政選挙があったが、立候補者数は、それぞれ5人、3人、6人、4人、3人、5人、5人、4人、4人、7人と、デュヴェルジェの法則とは無縁だ。
今回も9人の立候補者がおり、これまでの傾向が踏襲されている。過去2回の選挙で自民党公認や推薦の候補が当選後、辞職したこともあり、各党とも横一線のスタートだった。
さすがに自民党から公認候補は出せず、自民党以外のどの党にもチャンスがある選挙区なので、過去最高の候補者数となったのだろう。
それでもデュヴェルジェの法則を掲げたのは、そのメカニズムが興味深いからだ。小選挙区で2人に候補者が収束するメカニズムは、トップになると予想される候補者を支持する投票者は、同じような政策の候補者に投票してもトップは揺るがないと考える。また、自分の支持する候補者がトップにならないと思うと、似た考えで、よりトップになれそうな人に投票しがちになる。すると、トップと2番目の候補者に投票が集まり、3番目以下の候補者には票が集まりにくい。
東京15区では、選挙期間中にこの現象がこれまで起きていたし、今後も起きるだろう。
4月上旬の本コラムでは、乙武氏、酒井氏、金澤氏、飯山氏の「ダンゴレース」と書いたが、その後、乙武氏は急速に失速した。乙武氏を支援する小池百合子都知事が学歴詐称疑惑を告発され、国政復帰も厳しく、かつての神通力を失ったとの見方もある。目黒区長選でも支援する候補が敗れた。
マスコミは酒井氏を「優勢」「やや先行」とするが、連合東京は自主投票を決めたので、やや後退かもしれない。加えて、今後投票率が高まると、デュヴェルジェの法則で想定した動きが顕著になり、金澤氏、飯山氏に有利に働く可能性もある。酒井氏、金澤氏、飯山氏の「ダンゴレース」は選挙戦終盤にどのような展開となるだろうか。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)
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