筆者は、派閥は肯定すべきだと考えている。行き過ぎた派閥活動を是正することに異論はないが、派閥そのものを全面否定するのは誤っている。
ところが、岸田文雄首相(自民党総裁)は、派閥政治資金パーティーの収支報告書未記載事件を契機に、自ら率いてきた岸田派を解散し、安倍派、二階派、森山派もこれに続いた。さらに茂木派も解散に踏み切り、残るは麻生派だけになった。
今や、自民党はほぼ全員が「無派閥議員」だ。
派閥は自民党の立党時から存在した。ただ、現在よりも緩やかで、人間関係を中心としたものだった。それを変化させたのは、自民党が党首を選ぶシステムとして導入した総裁選だった。総裁選の定着とともに、総裁候補は同志を募り、政策を錬磨し、団結を強めて、来るべき戦いに備えるようになった。それが現在の派閥につながっている。
かつて、派閥は中選挙区制に由来するとの説が有力だった。中選挙区制が廃止され、小選挙区制になれば、派閥の必要性は薄れていくと考えられていた。しかし、それは誤りだった。小選挙区制になっても派閥はなくならなかった。総裁選がある限り存在意義が失われなかったからだ。
派閥の存在感が増すに従い、自民党も派閥を党運営に活用した。
執行部方針が派閥を通じて各議員に伝達されるのと同時に、個々の議員の意見や要望も派閥を通じて執行部に届けられた。派閥は「風通しの良い」党風を形成するうえで大きな役割を果たしてきたといっても過言ではない。
おそらく、無派閥議員ばかりになった自民党内の情報伝達力は低下していくことになるだろう。事実、最近の自民党はガバナンスの欠如が指摘されるようになっている。早くも影響が出てきたのかもしれない。
また、派閥は自派の勢力拡大のため、新しい人材の発掘や議員教育に力を注いできた。しかし、費用と手間のかかるこうした役割を今後、誰が肩代わりするのか。それでなくとも小選挙区制導入以降、人材発掘機能が低下し、2世議員ばかりになっていると批判される状況だ。政界の人材枯渇はいよいよ深刻化することになるかもしれない。
一方、既成派閥が硬直化していたのも事実だ。そのほとんどが総裁候補を持たず、新たなリーダーを選ぶ総裁選に対応できなくなっていた。早晩、派閥再編は不可避だったといえる。その意味で、既成派閥のくびきが解き放たれたことで、派閥再編が行われやすくなったともいえる。
いずれにせよ、9月までには総裁選がある。総裁選に向け、それぞれの総裁候補の下に派閥再編が行われることは自然の流れだ。とにかく、「派閥罪悪視」はやめた方がいい。派閥はニューリーダーの下に再編されてしかるべきだ。(政治評論家、伊藤達美)
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