東京都知事選(7月7日投開票)が目前に迫る中、小池百合子都知事が窮地に追い込まれている。政局を揺るがせた「4・28トリプル補選」の1つの衆院東京15区補欠選挙で、自ら担ぎ出した乙武洋匡氏と二人三脚での選挙戦を展開したにもかかわらず、当選した立憲民主公認候補に大差の5位と惨敗したからだ。
乙武氏の過去の「女性問題」や、無所属にこだわって自民、公明の支援が得られなかったことなど、「悪条件はいろいろあったが、選挙直前の小池氏の学歴詐称疑惑再燃による支持離れが大きな要因」(選挙アナリスト)との見方が支配的。選挙戦を支えた小池氏が率いる地域政党「都民ファーストの会」幹部も、「想定外の結果で、負けすぎ」とうなだれる。
これにより、補選前には永田町で飛び交っていた「小池氏の国政復帰」の臆測も消え去り、次期都知事選での「記録的圧勝」による3選にも、暗雲が広がり始めている。小池氏サイドは「都知事選ではすでに自公との協力関係を構築しており、野党側にも有力な対抗馬擁立の動きがないので、勝利は動かない」(側近)と強気だが、学歴詐称疑惑の今後の展開次第では、「思わぬ苦戦を強いられる」(選挙アナリスト)との声も出始めている。
乙武氏、立憲・酒井氏に大差の5位に
大乱戦として注目された東京15区(江東区)補選は、結果的に立憲民主が擁立し、共産が候補を降ろして支持に回った酒井菜摘氏が、約5万票を獲得して圧勝。小池氏の全面支援で酒井氏を追い上げていたはずの乙武氏(無所属=都民ファ副代表)は、他の無所属や日本維新の会、諸派の候補にも及ばない2万票足らずの得票で、9人中5位に沈んだ。
岸田文雄政権の命運が懸かったトリプル補選は、投票が締め切られた28日午後8時に、NHKはじめ主要メディアがそろって、酒井氏を含めた立憲民主公認候補の「当選確実」を速報し、「自民『全敗』・立憲『完勝』」の大見出しでの臨時ニュースを流した。
そもそも、今回の自民の「全敗」は、選挙期間中の各種情勢調査通りの結果で、巨額裏金事件とその対応への国民の強い不満、反発が、最大の要因であったことは間違いない。ただ、自民不戦敗の中で各党・各政治団体の候補が乱立した東京15区では、「裏金事件よりも、小池氏の担いだ乙武氏の得票が注目されていた」(選挙アナリスト)だけに、小池氏への大きな打撃となったのは間違いない。
今回の乙武氏の選挙活動では、小池氏が12日間の選挙戦のうち9日間も応援に入るなど、まさに陣頭指揮で勝利を目指した。3月末の定例会見で、都民ファ政経塾の講師役も務めた乙武氏の擁立を公表した小池氏は、選挙期間中も運動員とおそろいのジャンパー姿でウグイス嬢を買って出て、選挙カーから「乙武洋匡、何としても勝たせていただきたい」と連呼し続け、側近も「自分以外の選挙で、こんなに力を入れているのは見たことがない」と驚くほどだった。
しかし、告示後に実施された各種情勢調査では、いずれも乙武氏は劣勢で、焦った小池氏は、乙武氏への推薦を見送った自民と公明の都連国会議員らに、連日自ら電話で支援を求め続けたとされる。そのうえでの惨敗だけに「選挙に強いとされてきた小池神話が崩壊した」(政治ジャーナリスト)ことは間違いない。
都知事としての国政選挙敗北は3度目
小池氏が都知事として臨んだ国政選挙での敗北は、「希望の党」を立ち上げて敗れた2017年衆院選と、2022年の参院選東京選挙区で擁立した元秘書が10位と低迷したことに続く3度目。特に今回の惨敗には小池氏周辺からも「初の女性首相を目指しての国政復帰への期待など全くなくなった」との厳しい声が漏れてくる。それもあってか、小池氏は落選が決まった28日夜には、選挙事務所にも姿をみせなかった。
そうした状況の中、約1カ月半後の6月20日には都知事選が告示される。これまで出馬するかどうかを明らかにしてこなかった小池氏だが、3月末の人事で副知事1人を新たに登用する一方、側近を異例の処遇で続投させたことなどから、「3選出馬は既定路線」(都幹部)との見方が支配的。中央紙が補選で実施した出口調査でも「小池知事を支持する」という回答が半数以上だったとされ、「乙武氏の敗北による知事選への影響は少ない」(選挙アナリスト)とみる向きも多い。
ただ、「再燃した学歴詐称疑惑をさらに深めるような新たな展開があれば状況は変わる」(政治ジャーナリスト)との指摘もある。小池氏を巡る今回の学歴詐称疑惑再燃のきっかけとなったのは、4月10日発売の月刊文藝春秋5月号での「小池百合子元側近の爆弾告発」と題する特集記事だ。
これも踏まえ、小池氏と長年の交流があり、同氏の学歴詐称疑惑についてもその信憑性を指摘してきた舛添要一前東京都知事は、28日夜の東京15区補選の開票終了に合わせて、自らのXに「小池都知事が支援した乙武は5位に沈んだ」「小池の国政復帰などあり得ないし、彼女がこれ以上東京を沈没させるのは阻止すべきだ。政界からの引退を求める」と書き込んでいる。
「3選出馬」確実視、主要メディアも疑惑報道自粛へ
こうした状況を受け、小池氏の3選出馬が焦点となる都知事選に向け、立憲民主や共産などの野党関係者、市民団体が1日、国会内で選定委員会の4回目会合を開き、小池氏の対抗馬擁立について協議した。その結果、「候補者は5人以内に絞られた」(立憲幹部)として、5月下旬までに有力な対立候補を正式決定する構えだ。
そこで都知事選関係者が注目しているのは、小池氏の疑惑について「文藝春秋や他メディアが、さらに踏み込んだ材料を記事化するかどうか」(自民都連幹部)。ただ、「ここにきて文春側は、都知事選への政治的影響も考慮して、さらなる“小池攻撃”は自粛する方向」(文春関係者)との見方も出ている。
その一方で、主要メディアもこれまでと同様に「小池氏の学歴詐称疑惑は報道しない姿勢を変えていない」(政治ジャーナリスト)とされる。しかも、「岸田首相の会期末解散断行で衆院選と都知事選がダブル選となる可能性もある」(自民長老)だけに、「その場合は小池疑惑が政局混迷の渦の中に消える」(都知事選関係者)との声もささやかれている。
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