会社員ら給与所得者の定額減税では、政府が減税額を給与明細に記載するよう義務付けたため、事務やコストの負担が増える企業の担当者から悲鳴が上がっている。支持回復に結び付けたい岸田政権の思惑を見透かしたうえで、制度の問題点を指摘する意見も聞かれる。

 定額減税 物価高対策として昨年の税制改正大綱に今年の実施が盛り込まれた。年収2000万円以下の納税者と扶養家族が対象で、減税額は1人当たり所得税3万円、住民税1万円。会社員ら全国に約5000万人とされる給与所得者については、企業など給与支払者が6月から処理を始める。政府は関連法の施行規則を改正し、企業に所得税減税額の給与明細への記載を義務づける。所得税は扶養家族が多く6月に減税しきれない場合、7月以降に繰り越して差し引く。住民税は6月分は徴収せず、減税後の年税額を7月から11カ月間、均等に徴収する。

◆システム改修が間に合わなければ「手書き」を強いられる

定額減税の説明会が開かれた神田税務署=東京都千代田区で

 「政権のアピールにしか見えない」。東京都内で中小企業を経営する男性(61)は22日、千代田区の神田税務署で開かれた定額減税についての説明会に出席し、給与明細への減税額の記載義務について、そう漏らした。  男性は「明細の体裁は企業によってさまざまで、『連絡事項』のように自由に記載できる欄があるならまだしも、ない場合はどうするのか」と、明細の様式変更が必要になる可能性に言及。減税額の算出や書き出しに対応するため給与計算のソフトウエアの改修を迫られる企業も多いと指摘し、「友人の経営者からは『ソフトの改修費用はどうしてくれるんだ』といった声を聞く」と打ち明けた。  自動化が間に合わなければ、担当者が自ら減税額を記載するケースも想定される。  IT企業で経理を担当する女性も「給与計算システムのプログラムを追加しなければならない」と語るが、6月の減税実施に向けて「時間的に、もうぎりぎり」と焦りを口にした。また、今回の減税は、納税者の扶養家族が多いほど減税額が膨らみ、6月に減税しきれない場合は7月以降に持ち越すなど複雑。「社員にきちんと説明できるか」と不安そうに語った。(吉田通夫) 

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