<揺らぐ地方自治~改正案を問う>
 政府は地方自治体に対する国の指示権を拡大する地方自治法改正案を提出し、通常国会での成立を目指している。地方分権一括法で国と地方の関係が「対等」とされてから四半世紀足らず。各地の首長などから「上意下達に逆戻りする」などと懸念の声が上がる。この法案をどう見るか。地方自治、地域主権に取り組む人たちに聞いた。今回は福嶋浩彦・中央学院大教授。(聞き手・三輪喜人)=随時掲載します

 福嶋浩彦(ふくしま・ひろひこ) 1956年、鳥取県生まれ。千葉県我孫子市議、同市長、消費者庁長官を歴任。自治体議員政策情報センター幹事、民間シンクタンク「構想日本」理事などを務める。著書に「最先端の自治がまちを変える」など。

◆状況を知らない国が、分かっているつもりで出した指示では…

 ―自治体に対する国の指示権を拡大する地方自治法改正案の問題点は。

地方自治法改正案に警鐘を鳴らす福嶋浩彦・中央学院大教授

 「2000年施行の地方分権一括法で定めた『国と地方は対等』という関係を根拠なく壊そうとしている。もちろん市民は、非常時は地方分権の原則よりも自分たちの命と安全が大事と思うだろう。そこで考えたいのは、感染症のまん延や大災害などの時、個別の法律で想定していなかった事態が起こったら、現場を知らない国の指示で問題を解決できるのかということ。一番市民の現状を知っているのは自治体だ」  ―国の指示は現場の実態とそぐわないのか。  「例えば新型コロナウイルスの流行で布マスクを1世帯に2枚配った『アベノマスク』。各省庁えりすぐりの官僚を交えて考えたのにとんちんかんな政策だった。全国一斉の休校要請は政治パフォーマンスで、感染者が報告されていない地域も対象となった。これらも今後は指示になり得るのか。国はしばしば大きくずれる。地域の状況をよく知らない国が全国一律に、しかも分かっているつもりで出した指示では、市民を守れない」  ―改正案で国が自治体に指示できる範囲が広がる。  「災害対策基本法や感染症法といった個別法の中で、必要な国の指示権は既に認められている。今回、それに加えて地方自治法で分野を限定せず、『国民の生命や安全が危ない』と言えば何にでも当てはまるような抽象的な要件で指示できるのは危うい」

◆被災した県知事は「現場に権限を」と言った

 ―東日本大震災の際、消費者庁長官として政府内にいた。国による指示権行使が必要だと感じたか。  「被災した東北各県の知事の中で誰ひとり、国から適切な指示を出してほしいと言わなかった。逆に現場に権限がほしいと。私はその前には千葉県我孫子市長を務めていたが、国からの指示が必要だと思ったことは3期12年の在任中、一度もなかった。想定外の事態が起こった時ほど、自治体と国が上下関係ではなく、対等に協議して知恵を出し合い、連携・協力をしていくことが大切だ」  ―自治体が国からの「指示待ち」になる恐れも指摘されている。  「国と自治体は時に厳しく対立しながら相互作用し、社会をつくっていくことが大事。自治体が指示待ちではだめだ。分権とは、国が自治体に権限を分け与えるのではなく、主権者である市民が国と自治体に分けて権限を与えること。なるべく身近な自治体に与え、主権者としてコントロールしやすくすることが重要だ」 

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