北九州市による明治期の初代門司港駅(当時の名称は門司駅)関連遺構の取り壊し方針に対し、国際記念物遺跡会議(イコモス)が発出した緊急声明文を、日本イコモス国内委員会が27日、市に提出した。同委の福島綾子・九州大准教授は記者会見で「日本の文化財行政に対する国際的な信用が損なわれかねない事態」と指摘。遺構保護のためにイコモスとの協議の場を設けるよう同委を代表して市に要請し、7月中の回答を求めた。
イコモス会長名で出された声明文は、遺構の取り壊しについて「重大な懸念」を表明。遺構の保護を求める国際緊急声明「ヘリテージ・アラート」の発出も検討するとしている。
市側はこの日、現地への複合公共施設建設を担当する都市戦略局と、文化財保護担当の都市ブランド創造局の課長2人が対応し、「建設工事を進めたいとの思いは変わらない」などと従来の方針を繰り返した。
声明文を提出後に記者会見した福島氏は「緊急声明は会長名ではあるが、あくまでも本部としての発出。各国の委員会からもアラート発出の要請がなされ、多忙な中、特例的に対応していただいた」とその重みを強調した。
イコモスは2022年に東京都の鉄道遺構「高輪築堤」、23年に明治神宮外苑再開発について、日本に対しアラートを発出している。福島氏は「3年連続の発出となれば、日本の文化財行政に根本的な問題があるのではとの見方が世界に広まる。各地から今後申請される世界文化遺産候補の審査にも悪影響を及ぼしかねない」と警鐘を鳴らした。
また初代駅舎本体の埋蔵が予想される区域でJR九州が進めている掘削工事についても言及。遺構が破壊されかねない状況が続けばJRもアラートの発出対象に含まれる可能性があると指摘した。
27日は市議会建設建築委員会でも声明への対応が議論された。西田一議員(自民)は、15年に八幡製鉄所が世界文化遺産に登録された際、市がイコモスから多大な協力を受けたことを振り返り「声明を重く受け止めなくてはいけない」と市の対応をただした。
市側は「声明の内容を検討し誠実に対応したい」と答弁。西田氏は7月25日開催予定の次回委員会までに方針を示すよう求めた。
武内和久市長は「今後とも必要な情報収集に努めていきたい」とのコメントを発表した。【伊藤和人、山下智恵】
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