立川吉笑=濱田元子撮影

 「ぷるぷる」。なんとも奇妙なタイトルの吉笑の新作落語を初めて聴いた時、その発想と瞬発力に驚いた。2022年、若手の登竜門「NHK新人落語大賞」で満点を受賞した伝説のネタでもある。

 10年11月6日に、立川流の立川談笑に入門。新作を軸に着実に人気と実力を兼ね備えてきた。満を持して来年6月1日に真打ちに昇進する。

 「自分のことを知ってもらうタイミング。名刺代わりになるものがあったほうがいいな、と思っていた」。入門日と同じ、11月6日に発売されたのが「立川吉笑 落語傑作選 2010―2024」(2枚組み、ソニー・ミュージックレーベルズ)だ。

 もちろん「ぷるぷる」を含め、「ぞおん」「くじ悲喜」「一人相撲」「狸の恩返しすぎ」「床女坊」と全6席収録されている。いずれも今年5月、東京の座・高円寺2で開いた「吉笑祭」でのライブ音源だ。高円寺は修業期間を過ごした、思い入れの深い街である。

 これまで作った落語は100~120席というが「1回だけでやらなくなったものや、メモしか残っていないものもある。常備しているのは30席くらいで、それが武器。スタメンが10席で、今回の6席は主要メンバー。14年間の集大成、自分の持っている幅を全部詰められたかなと思う」と自信のほどをのぞかせる。

 「ぷるぷる」や「くじ悲喜」は、仕草や表情で見せるところもあるが、音源でも想像力を喚起させてくれる。京都出身という強みを生かし、江戸弁、標準語、関西弁を自在に駆使。「くじ悲喜」ではその使い分けが存分に生かされており、聴きどころにもなっている。

 落語を初めて聴いたのは08年、立川志の輔のCDだった。当時は、お笑いで活動していたが、なかなかうまくいっていなかったという。

 「最初に聴いたのが『はんどたおる』と『死神』。落語ってそれまでは堅苦しいと思っていたが、『はんどたおる』はシチュエーションコメディー。そして『死神』はその世界観に圧倒された。志の輔の師匠の談志の音源も聴き始めると、マクラでしゃべっている哲学的なことがズシンときた。落語っていう表現はすごいかもって思った」

 同じ立川流の談笑の一番弟子として入門し、前座は約1年半と、二つ目にスピード出世したが、逆に二つ目を長く過ごすことになった。

 「もう少し早く、真打ちになれるタイミングはあったが、自分としては真打ちになったからってそれだけでは価値がないと思っていた。真打ちの中でも輝ける落語家になりたい。ほかの真打ちさんと互角に戦って輝ける自信はなくて、もうちょっと地力をつけなくちゃ、というのがこの数年。NHKも受賞できて自信にもなった。この2、3年があってよかった」と冷静に分析する。

 来年6月1日の真打ち披露興行をオンライン配信するというアイデアもユニークだ。

 「お笑い文脈でも、落語のすごさを少しでも伝えていきたい。不条理なものを表すという、漫才やコントではできないことが落語でできそうだと思って入門した。最近は落語の文脈で仕事をしていて、その初心を忘れていた。お笑いファンに向けて、落語は古くさいと思っているかもしれないけど、こんなに面白いと伝えたい」

 才気は抜群。これからどう進化していくか、楽しみな落語家の一人であることは間違いない。【濱田元子】

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