名人戦第3局の対局中、振り返って窓の外に目を向ける藤井聡太名人=羽田空港第1ターミナルで2024年5月9日、岩下幸一郎撮影
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 第82期名人戦七番勝負(毎日新聞社、朝日新聞社主催)では、藤井聡太名人(21)と豊島将之九段(34)の対局中の表情が撮影され、ユーチューブの棋譜中継ページで生配信している。1日目や2日目の対局開始時以外は、対局室に入れるのは基本的に対局者と記録係だけ。カメラマンのいない時間帯にどうやって写真を撮影しているのだろうか。

 18日に大分県別府市の割烹(かっぽう)旅館もみやで始まった第4局の対局室では、両対局者と記録係を撮るカメラ、藤井名人だけを撮るカメラ、豊島九段だけを撮るカメラが配置されている。毎日新聞、朝日新聞、ABEMAの各社がそれぞれ3台。盤面を撮るため天井に設置されたカメラを合わせると計10台になる。

豊島将之九段の表情を狙う3台のカメラ。右から毎日新聞、ABEMA、朝日新聞のもの=大分県別府市で2024年5月18日、丸山進撮影
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 毎日新聞写真映像報道部の岩下幸一郎記者によると、毎日新聞のカメラは遠隔操作でシャッター音なしに写真を撮れるほか、動画を出力する機能を備えている。「対局者の見たこともない表情や仕草を撮っている。“静”の対局の中の“動”を撮れるのが面白い」。対局中はカメラを操作するタブレット端末の前を離れず、シャッターチャンスを絶えず狙っている。

 東京都大田区の羽田空港で指された第3局は、滑走路や駐機場に面した部屋が対局室となり、対局中に豊島九段が腰を浮かせて窓の外を眺める様子や、藤井名人が背後の大きな窓の方へ振り返った瞬間を写真に収めた。豊島九段は検分時に「座高がもうちょっと高ければ飛行機の様子が見えたのに」とおどけ、藤井名人は対局翌日に「背後の窓から飛行機を見てリフレッシュしていた」と明かしていた。

豊島将之九段の表情を狙う3台のカメラ。右から毎日新聞、ABEMA、布に覆われた朝日新聞のカメラ=大分県別府市で2024年5月18日、丸山進撮影
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 カメラでは、対局ごとの投了の瞬間を逃さず押さえている。第3局では豊島九段が検討陣が考えるより早く投了し、関係者を慌てさせたが、その瞬間も逃さなかった。岩下記者はX(ツイッター)で、「投了の場面は、自ら負けを認め首を差し出すわけで、とても残酷に思います。それでもそれが勝負の世界に生きる棋士の姿でもあるので、写真記者として、それに恥じない仕事ができればと思います」とつづった。

 第4局の対局開始の際には、対局者が手を指した瞬間、対局者からは見えないカメラの裏側のランプが音もなく点滅した。カメラマンにとっても長い2日間が始まった。【丸山進】

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