◆自宅で介護受けるのを諦めた人も
「4月以降、あちこちで事業所閉鎖の話ばかり」。東京都北区で訪問介護事業所を運営する40代女性は嘆いた。女性によると、約60の事業所がある同区では3カ所が閉じた(予定も含む)。利用者は他の事業所が引き継いだか、自宅で介護を受けるのを諦めてサービス付き高齢者向け住宅などに移った人も多いという。 女性の事業所はヘルパー20人の平均年齢が61歳。最高齢は75歳だ。腰や膝の痛みを抱え、ベッドから車いすへの移乗や入浴などの身体介護ができない人もいる。家事などを行う生活援助に回った場合、身体介護に比べ報酬は低い。所長自ら1日8件の訪問をこなしヘルパーの募集も続けるが、ここ3年で応募は1人だけ。「しかもすぐに辞めてしまった」◆「厚労省の通知を追う余裕もない」
改定について厚生労働省は「基本報酬は減額したが、職員の処遇改善の加算率を高くした」と説明する。だが、女性は「申請書類が多過ぎる。事務職員がいない中小の事業所は、次々に出される厚労省の通知を追う余裕もない」と訴える。ヘルパー(左)が訪問し、背中に湿布を張ってもらう利用者。部屋の掃除や、入浴介助なども受けている=埼玉県新座市で(五十住和樹撮影)
「報酬削減なんてひどい話。訪問介護がなくなったら困ります。そういう政治はやめてほしい」。要介護2で週2回の訪問を受ける埼玉県新座市の女性(88)は訴える。女性を担当する事業所も求人に反応がない状態で、新たに若い人を雇うことができない。基本報酬減には処遇改善の加算を取得して対応しているが、経営への影響が出始めているという。 東京商工リサーチによると、本年度上半期の訪問介護事業者の倒産は46件(前年同期比35.2%増)で、上半期では過去最多を記録。ヘルパー不足にガソリン代や電気代などの運営コスト上昇も加わり収益が悪化した。「基本報酬の引き下げで事業継続を諦めたケースも、倒産件数を押し上げている可能性がある」と分析している。 衆院選に際し、介護関係の職員や有識者らでつくる市民団体「ケア社会をつくる会」など3団体は、主要各党に介護保険に関する公開質問状を送付。3年後の改定を待たずに基本報酬の減額を撤回するかどうかについては、意見が分かれた。3団体は「どの政党が私たちの意向をくみ取ってくれるのかしっかり判断したい」とコメントしている。訪問介護の基本報酬 訪問介護は食事や入浴などの身体介護、掃除や洗濯などの生活援助、通院等乗降介助がある。身体と生活はサービス提供時間によって事業所に支払われる基本報酬額が異なる。本年度の改定では介護報酬全体では1.59%引き上げたが、訪問介護の基本報酬は2〜3%引き下げた。厚生労働省は経営実態調査で判明した高い利益率を理由に挙げるが、全体では約4割の事業所が赤字だった。有料老人ホームなどの利用者を効率よく回る主に大手の事業所と、地元の利用者宅を回る主に中小事業所との格差が拡大している。
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。