27日投開票の衆院選で最大の争点となった「政治とカネ」の問題。自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件の震源地となった旧安倍派(清和政策研究会)の座長で、党から離党勧告処分を受け、政界引退を決めた塩谷立元文部科学相(74)が、東京新聞のインタビューに応じた。主なやりとりは以下の通り。(聞き手・大杉はるか)

裏金問題や安倍政権について話す塩谷立前衆院議員

 ―9月の引退会見で「犬死にしたような思い」と語った。変わらないか。  「変わらない。離党勧告の処分は何だったのかということだ。真相解明がされず、不記載だけが取り沙汰された。何が問題だったのかが深掘りされず、処分ありきだったのでそれは違うだろうと」  ―真相究明を阻んだものは何か。  「(岸田文雄前首相の)保身があったのでは」

◆「こちらの処分は何だったんだ」

 ―処分を決めた岸田前首相も8月に責任をとる形で辞任表明に追い込まれた。  「(辞任は)遅いよね。岸田さんが辞めるなら、こちらの処分は何だったんだという思い。党のためにこちらが辞めて収まるなら良かったが、収まらなかったんだから何のための処分だったのか。『犠牲』にもなっていない」

裏金問題や安倍政権について話す塩谷立前衆院議員

 ―党が4月に出した処分対象は塩谷氏を含め一部に過ぎず、世論の納得も得られなかった。  「もともと処分は、脱税や選挙違反など具体的な行為を対象とするが、今回は道義的責任が問われた。その場合は、責任はトップ(総裁)がとらないと収まらない。安倍派つぶしということで進めたのなら大きな間違い」

◆「還流を受けたが不記載は知らなかった」

 ―派閥パーティー収入のノルマ超過分のキックバック(還流)は慣行だった。  「毎年事務的には、販売ノルマを決めて、還流も良いということで進んできた。自分で売った分なので、還流自体はやってもらって良いと思った。ただなぜ不記載にしたのか。私自身はノルマ分を売るのに精いっぱいで、(立件対象になった)5年間はノルマが下がったので還流(計234万円)を受けたが、不記載は知らなかった」

裏金問題や安倍政権について話す塩谷立前衆院議員

 ―5年間で数千万円の還流があった議員事務所は不記載を知っていたのか。  「自覚はあったはずだ。だが、きちんと調べていないから、全く事実は不明なままだ」  ―毎年パーティーを開いてまで、派閥資金を集める必要があったのか。  「それは必要でしょうね。派閥運営にはそれなりの金がかかる。安倍派は(所属議員)100人くらいが動くわけだから」  ―派閥の役割は。  「政策勉強会をやったり、若手の指導をしたり、さまざまだ。私は派閥を『クラス分け』と呼んだが、人事についても首相が全員を平等に評価できるわけではないので、派閥の役割はあったと思う」

◆「総裁が自分の都合で結論…危機的状況」

 ―裏金事件を受けて自民党内の派閥は麻生派以外は解散した。  「派閥がなくなったら、やっぱり議論がなかなかできなくなるのでは。最近は党内議論が低調だよね。総裁が自分の都合で結論を出してしまうというのは、ちょっと危機的状況。時間をかけて議論して決まれば、みんなで前へ進める。それがなくなっている状況がある」  ―安倍派が最大派閥になったのは総裁派閥だったからか。  「かつての安倍晋三首相は政策目標を決めて、世論が何と言おうと、議論して突き進めたし、ユーモアもあって優しかった。安倍さんを慕い、安倍さんの応援を受けて頑張れたからでは」

裏金問題や安倍政権について話す塩谷立前衆院議員

 ―先の通常国会では改正政治資金規正法が成立し、政治家の責任もある程度は強化された。  「(政治とカネを巡る)本質的、本音の議論がされていないから、改正しても世論から支持されなかった。政策立案のために調査したり、場合によっては海外視察もしたりして、費用はかかる。秘書を多く抱えて、皆さんの声を聞いたり、政治の在り方を伝えたりと、仕事をしようとすれば資金は必要。公費でどこまで賄うかということまで考えてもらわないと」  ―野党は企業・団体献金の廃止を主張している。  「ありがたいことに個人献金もあるが、企業献金とは全然額が違う。きれいごとばかり言ってもだめ。本音の議論が必要ですよ」  ―政治の信頼回復は。  「衆院選の結果がどう出るかだが、どういう結果にせよ、国民の信頼回復は簡単ではない。やるべきことをやらないと」

 自民派閥裏金事件 東京地検特捜部が捜査した政治資金規正法違反(虚偽記入)事件。安倍、二階、岸田の3派閥は、派閥パーティー券の販売ノルマを超えた利益の各議員への還流分や、収入額の一部を政治資金収支報告書に記載せず「裏金化」していた。不記載額は2018~22年で計17億円超。今年1月、3派の会計責任者や、不記載額が「3500万円以上」の国会議員ら計10人が立件された。



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