「個別避難計画策定は、国が言う通りには行かない。どこの自治体もそう思っている」。2023年度に計画策定に着手した奈良県大淀町の担当者は、見えてきた課題の多さ、重さにこうこぼした。
東日本大震災で高齢者や障害者ら「災害弱者」に犠牲が多かったことを受け、国は13年、改正災害対策基本法により、障害者手帳や介護保険の等級などに基づいて「避難行動要支援者名簿」を作成することを自治体に義務づけた。前回衆院選があった21年には、名簿に基づき災害時の避難手順や避難所での対応をあらかじめ整理しておく「個別避難計画」策定を市町村の努力義務とした。
しかし3年たっても県内では中南和地域を中心に策定が進んでいない。国によると、24年4月1日時点で計画作成の進捗(しんちょく)状況を「2割以下」と答えた自治体は全39市町村中30市町村にのぼる。
その一つ、大淀町は昨年度、計画策定に取り掛かった。まず、町指定の福祉避難所の定員の30人を目標に対象者を選定した。対象者への聞き取りをケアマネジャーらにしてもらい、1年で12人分を完成させた。
それまで人手や策定ノウハウに不安があって二の足を踏んでいたが、国が例を示した「加速化促進事業」を活用した。県の協力を得て、ケアマネジャーに支払う報酬などの実費約60万円の交付を受けて策定した。担当者は「制度に背中を押してもらった」と話すが、実際に作業を進めると課題が次々に明らかになった。
避難者のケアを誰が担うのかが一つ。町指定福祉避難所となる社会福祉総合施設「美吉野園」は、通常約100人の障害者らが利用している。施設職員は災害時、「避難者のケアは可能な範囲でサポートするが責任を担えない」と明言する。
災害時に身を寄せる“候補者”は当初約50人いたが、そのほとんどはケアを担える人材が見つからず、計画策定を断念した。結局、策定できたのは同居家族らがいる12人にとどまった。担当者は「独居などで、もしものときに頼れる人がいない人が増えている」と話した。
計画をどの範囲で作るかも課題だ。避難行動要支援者名簿に載った、福祉避難所が必要な障害者は町内に約200人。受け入れ枠は全く足りず、「一般の避難所で受け入れられるような手段を考えないといけない」と話す。受け入れが決まった人について美吉野園の担当者は「面談をして、どんな人かを把握しておきたい」と話す。まだすべきことはたくさんある。
町の担当者は「足りていないことが多いが、諦めずにやれることを一つ一つ進めていくしかないと思っている」と話す。
大淀町は策定できたが、14市町村は未策定のままだ。南和地域のある村は4月、策定に向けて検討を始めたが、完了のめどとしていた8月を過ぎても着手できていない。「認識が甘かった。そもそもどうやって作るのか分からない。どう作っているかどこか自治体に聞いていますか?」と記者に尋ね、途方に暮れている。
元日に能登半島地震があり、8月には「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が発表された。自然災害への備えの具体化は待ったなしだ。
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「未策定」と答えた自治体(24年4月1日時点)は以下の通り。大和高田市∇桜井市▽香芝市▽山添村▽安堵町▽川西町▽三宅町▽高取町▽明日香村▽河合町▽下市町▽野迫川村▽下北山村▽川上村。【川畑岳志】
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