当選確実となり、水をかぶって喜ぶ河村たかし氏=名古屋市東区で2024年10月27日午後8時6分、山崎一輝撮影

 27日投開票された衆院選で、政治団体「日本保守党」から愛知1区に立候補した前名古屋市長、河村たかし氏(75)が、早々に勝ち名乗りを上げた。

 開票直後の午後8時すぎ、名古屋市東区の事務所に詰めていた河村氏は、当選確実のテレビ速報が流れると、支持者らから大きな拍手と歓声を浴びた。

 「サンキューベリーマッチ、ありがとう。総理を狙う男アゲイン」。事務所前に移動した河村氏はトラックの荷台の上で、市長時代から当選後の恒例となっているバケツの水を頭からかぶるパフォーマンスを披露した。

15年ぶりの国政復帰

 河村氏にとってこの1年は激動の日々だった。

 「ええ死に場所を与えてくれた」。昨年10月、日本保守党に合流する際、河村氏は周囲にこう漏らした。保守党は百田尚樹氏(68)と事務総長のジャーナリスト有本香氏(62)が設立し、河村氏は共同代表に就いた。

 そして1年後の10月1日。「総理を狙う男、アゲイン」と表明し、名古屋市長を辞め、国政に挑戦することを明らかにした。日本保守党は皇室典範の改正や外国資本による不動産買収の禁止など保守色が色濃い一方、河村氏が市長時代に取り組んだ減税政策も掲げる。

 出馬表明からわずか2週間で迎えた12日間の選挙戦でも「選挙モンスター」の異名は健在だった。「ハワユー(How are you)」。英語と名古屋弁で買い物客らに気さくに声をかける。時には演説そっちのけで、通行人と話し込む。世間話や自分の話が大半を占めても聴衆は河村氏と握手し、写真撮影を求めて人だかりができた。

 笑いの中にも「河村節」を織り交ぜ、既存政党への対決姿勢を崩さなかった。裏金事件で逆風が吹く自民党に対し、「地方議員の給料が高きゃあもんだで、稼業になってまって、それが裏金になる。根本をたださなイカん」と批判。「うそにまみれた銭の世界で、税金を払う方が苦労しとって、税金でくっとる方は極楽。それイカんよ。八百長だ」と気勢を上げた。

 古巣の旧民主党(現立憲民主党)にも容赦しない。かつて消費税を上げたことをやり玉に挙げ「民主は選挙やる前にいっぺん謝らなイカンでしょ」と声を荒らげた。

ほっとけない魅力

 「庶民革命」を標ぼうする河村氏は、生活者の側に立っていることをアピールすることで市民の底流に流れる国政、市議会への不信に火を付け、人気に結びつけてきた。今年9月には歌手デビューも果たし、「何をやってもしかられる」と自虐的に歌うなどの自作自演のパフォーマンスで市民の心をつかんだ。

 選挙中の演説に訪れた50代女性は、河村氏が21年8月にオリンピックの優勝報告に訪れた選手の金メダルをかじった問題に触れ、「嫌いになったりするんだけど、何かほっとけない魅力がある」と語った。

 選挙戦序盤、思いがけず、河村氏の別の顔を目にした。登場時間を待つ車の後部座席でじっと目を閉じていた。眉間(みけん)にはしわが寄っていた。“愛車”に乗って街に繰り出す「自転車街宣」も影を潜めた。陣営の関係者は「昔は一日数十キロはこいでいた」と振り返る。

 「75にもなって、ようやっとりますわ。ヒャーボール(ハイボール)飲まないとやっとれませんわ」。隠しきれない「老い」を背負って再び国会に足を踏み入れる。にんまりと笑うその表情を見ていると、老かいさとともに、持ち前の「人たらし」さが、この15年半でさらに磨きがかかったように感じる。

異端児に共感と憧れ

 河村氏の人気の秘密はどこにあるのか。名古屋学院大講師の松本義弘氏(45)=経営学=は、名古屋の土地柄、市民気質について「市場分析からも、良くも悪くも閉鎖的であり、派手好きではあるが、実は質実剛健な気質。団塊の世代までは内向きの傾向があり、その世代の河村さんは『名古屋人』には当てはまらない異端児」と指摘。そのうえで「ここ20年、組織や固定観念、予定調和の枠内に縛られず文化を外に発信する世代が主流となる中、河村さんに共感する若い世代や、憧れを抱く(河村氏と)同世代、さらに上の世代に支持されているのでは」と分析する。

希代のポピュリストか、現代のドンキホーテか

 今回の選挙で比例代表でも議席獲得の勢いを見せる日本保守党。河村氏は選挙中、ひんぱんに「NHKの日曜討論や(民放の)TVタックルに出たらおもしれーぞ」と口にした。同党が国政政党の要件の一つである5議席以上を確保すれば全国中継の番組にも出演することができるため、党の政策を広くアピールできるとの考えがあるからだ。

 「国会でどえりゃあ暴れる」。意気軒高に抱負を語る75歳。市民の利益を強調し、エリートや既存の政治秩序に対抗する希代のポピュリストなのか。それとも理想と誇大妄想にとりつかれた現代のドンキホーテなのか。

 衆院選出馬の際にはかつての人気クイズ番組で流行した言葉を使って「ファイナルアンサー」と言った河村氏。毀誉褒貶(きよほうへん)相半ばする政治家が選んだ「最終回答」に、国民はどんな評価を下すのか。【真貝恒平】

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