派閥の裏金事件などで自民党に厳しい審判が下り、自民と公明の与党が15年ぶりに過半数を割った今回の衆院選。立憲民主党や国民民主党が躍進し、与野党の勢力が拮抗(きっこう)した。東大先端科学技術研究センターの牧原出教授に、民意の背景や今後の展望を聞いた。(近藤統義)

 牧原出(まきはら・いづる) 1967年、愛知県生まれ。東北大教授などを経て、2013年から現職。専門は行政学、日本政治史。著書に「崩れる政治を立て直す」など。円滑な政権運営の要諦を示した報告書「官邸の作り方」を6月に研究者有志とまとめた。

報道各社のインタビューに答える自民党総裁の石破茂首相=27日、東京・永田町の党本部で(佐藤哲紀撮影)

 与党の敗北をどうみるか。  「自民が裏金問題に対する明確な姿勢を示さないことに対し、有権者の不満がたまっていた。非公認候補が代表を務める政党支部への2000万円支給は不満に火をつけた。裏金議員の選挙活動そのものが、自民へのネガティブキャンペーンになっていた。石破茂首相には、自民のあしきレガシーを断ち切る期待感があったが、党総裁らしい態度を取ることでそれが失われていった。公明も裏金議員を推薦し、連立政権の負の側面が表れた」  首相の責任は。  「責任がより大きいのは裏金議員であるはずだ。今首相を代えたところで、来夏の参院選を乗り切れるかも分からない。首相に求められるのは『こらえる政治』だ。党内で強いリーダーシップを発揮し、批判に耐えながら政治改革を毅然(きぜん)とやり抜けるかが試されている」

報道各社のインタビューに答える立憲民主党の野田佳彦代表=27日、東京・永田町の党本部で(布藤哲矢撮影)

 立憲民主が支持された要因は。  「センター(中道)の民意を取らなければ政権交代はできない。野田佳彦代表の中道保守路線が功を奏したが、今後は党内のガバナンスという課題に直面する。選択的夫婦別姓の導入など、自民ができない政策を打ち出しつつ、従来の支持者の期待を拾いながら大きな塊をつくっていけるかが問われるだろう」  国民民主の対応が注目されている。  「自民を支持できない層の期待が集まったのは間違いない。ただ、労働組合の支援を受ける以上、自民と連立を組むのは理屈が立たず、難しいとみている。かつて仲間だった立民と団結する方向に行くべきだが、原発問題など政策の溝を埋めていく必要がある」

東大先端科学技術研究センターの牧原出教授(資料写真)

 投票率は今回も低調だった。  「有権者は自民への諦めとともに、野党を(期待の)受け皿と思っていない。野党が政権を担うには、外交や安全保障などで現実的になって政策の選択肢の幅が狭まる分、自民とは違う新しい人材を担い手として取り込み、政党としての魅力を高めていくべきだ」  政治とカネは今後も問われ続ける。  「全ての政治資金の透明化は絶対に不可欠だ」 

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