岸田首相「反省とおわび 直接お伝えしたい」
全面解決を求める要望書を提出
面会した原告は
被害者への新たな補償 超党派の議員連盟で検討へ
6年前から各地で裁判 最高裁が今月“憲法違反”判断
「旧優生保護法」とは
総理大臣官邸を訪れた原告の北三郎さん(仮名)と弁護団の新里宏二弁護士などは岸田総理大臣に対して旧優生保護法をめぐる問題の全面解決を求める要求書を提出しました。要求書では、▼政府と国会の謝罪のほか、▼今も全国で続いている裁判の早期解決、▼裁判を起こしていない人も含めたすべての被害者に対する補償法の制定などを求めています。また同じ過ちを二度と繰り返さないため、▼当事者や弁護団、第三者でつくる機関で検証することや、▼障害者に対する偏見や差別の根絶に向けた教育を推進することなども求めています。新里弁護士は「総理から直接、被害者に対して謝罪の言葉を聞いたが、もっと早く聞けたのではないか。きょうは被害者の実態や生の声を聞いていただき、被害者の全面解決のために全力を傾けていただきたい」と話していました。
原告の1人で東京に住む北三郎さん(仮名)は「長い間、本当につらく、判決を聞いたあとも心が晴れません。国として責任を取ってほしいし国として真剣にこの問題に向き合い考えてもらいたい。また、声を上げられていない人も多いと思うので、その人たちに謝ってほしい。2度と私たちと同じようなつらい思いをする人がなくなるよう、法律をつくってもらいたい」と話していました。
また原告の1人で札幌市に住む小島喜久夫さんは「私は19歳の時に病院に入れられて、『精神分裂症』というあだ名をつけられて優生手術をされました。そのことは一生忘れません。まだみなさんの訴えが続いていますが、国はきちんと認めてほしいと思います。よろしく頼みます」と話していました。
原告の1人で神戸市に住む鈴木由美さんは「私の知らない間に親が勝手に不妊手術をして、そのあと手術の後遺症で20年間寝たきりになりました。国が変な法律を作るから私はいまも差別を受けています。もっと苦しい人もいっぱいいます。国が社会を変えてほしい」と話していました。
また原告の1人で浜松市に住む武藤千重子さんは「2万5000人もの被害者がいること、それに関わった多くの医師や看護師が何の責任もとらないことに私は憤りを覚えています。その人たちに、そのときどんな思いで手術をしたのか、本当に聞いてみたいです。心の底から悔しく思います」と話していました。
原告の1人で宮城県に住む飯塚淳子さん(仮名)は「不妊手術によって健康な体が傷つけられ、痛みに悩まされ、精神的ストレスが積み重なり働けなくなりました。私はこの被害が闇に葬られてはならないと思いたった1人で歯を食いしばって被害を訴え続けてきました。国が非を認めないことで苦しめ続けられました。最高裁判所の判決でやっと希望の光が見えてきましたが私の人生は返ってきません。本当は私の体を元に戻してほしいと思っていました。せめて国に心の底から謝罪し被害者に寄り添い心のある解決をしてほしい」と話していました。
旧優生保護法による被害者への新たな補償は、先の最高裁判所の判決を踏まえ、岸田総理大臣が検討していくことを表明しました。具体的な検討は、旧優生保護法が1948年に議員立法で制定された経緯なども背景に、超党派の議員連盟で進められることになり、今月作業チームが設置されました。議員連盟では、できるだけ早く新たな補償のしくみの内容を固め、必要な法案を議員立法で国会に提出したいとしています。政府は立法作業に連携して対応していくとともに、法案が成立すれば、それに基づいて必要な措置を講じていく方針です。旧優生保護法をめぐっては、被害者から訴えが相次いだ中、2019年に議員立法で成立した被害者の救済のための法律に基づき、これまで一律で320万円の一時金が支給されてきていますが、新たな補償はこれとは別に行うことが想定されています。補償に関し原告や関係者からは「従来の一時金では到底不十分で、被害者の実情を踏まえた水準を確保すべきだ」という意見や「裁判の原告だけでなくすべての被害者を対象にする必要がある」との要望が出ています。政府内にも「被害者の意向を最大限踏まえたしくみにすべきだ」との声もあって、具体的な制度設計では金額や対象範囲が大きな焦点となります。
旧優生保護法をめぐっては超党派の議員連盟の会合で会長を務める自民党の田村・元厚生労働大臣が「反省にのっとった国会決議も考えなければならない」と述べるなど、与野党の間からおわびや反省を示すため、国会決議を行うべきだという意見が出ています。このため国会では今後、被害者への新たな補償のための法整備の議論に加え、国会決議に向けた調整が行われる見通しです。
旧優生保護法のもとで不妊手術を強制された人たちが国に賠償を求める裁判は、6年前に知的障害がある宮城県の女性が仙台地方裁判所に初めて起こし、その後、全国に広がりました。弁護団によりますと、これまでに39人が12の地方裁判所や支部に訴えを起こし、これまでの判決では不法行為を受けて20年が過ぎると賠償を求める権利がなくなるという「除斥期間」について判断が分かれていました。原告は高齢で、弁護団によりますとこれまでに原告39人のうち6人が死亡しました。
こうしたなか最高裁判所大法廷は、今月3日「旧優生保護法は憲法に違反していた」としたうえで「除斥期間」の適用については「この裁判で、請求権が消滅したとして国が賠償責任を免れることは、著しく正義・公平の理念に反し容認できない」として認めず、国に賠償を命じる判決を言い渡しました。判決は裁判官15人全員一致の結論で、法律の規定を最高裁が憲法違反と判断したのは戦後13例目でした。
「旧優生保護法」は戦後の出産ブームによる急激な人口増加などを背景に1948年に施行された法律です。法律では精神障害や知的障害などを理由に本人の同意がなくても強制的に不妊手術を行うことを認めていました。当時は親の障害や疾患がそのまま子どもに遺伝すると考えられていたこともあり、条文には「不良な子孫の出生を防止する」と明記されていました。旧優生保護法は1996年に母体保護法に改正されるまで48年にわたって存続し、この間、強制的に不妊手術を受けさせられた人はおよそ1万6500人、本人が同意したとされるケースを含めるとおよそ2万5000人にのぼるとされています。国は「当時は合法だった」として謝罪や補償を行ってきませんでしたが、不妊手術を受けさせられた女性が国に損害賠償を求める裁判を起こしたことなどを受けて、2019年旧優生保護法のもとで不妊手術を受けた人たちに一時金を支給する法律が議員立法で成立、施行されました。この法律は本人が同意したケースも含め、不妊手術を受けたことが認められれば一時金として一律320万円を支給するとしています。国のまとめによりますとことし5月末までに1331人が申請し、このうち1110人に一時金の支給が認められたということです。一方、今月3日の最高裁判所大法廷の判決では、弁護士費用も含めて一時金の額を大きく上回る最大で1650万円の賠償命令が確定しました。最高裁はこれまでの政府や国会の措置について「国会で適切、速やかに補償の措置を講じることが強く期待されたが、一時金320万円を支給するのにとどまった」と厳しく指摘しています。
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